第4話 魔法ってやつ!?

「どうにかするじゃと……なにを生意気なことを。素人のお前が倒せるわけがなかろうに。お前はおとりらしく、攻撃などはせず、そこで見守っておれ。わしが戦う」


「うるせぇ……やってみないとわからないだろ。それに爺さんはもう結構な歳なんだし、あんたこそ止めた方がいいんじゃないか。ていうかなんでおとり役を名乗り出たんだよ。俺一人でも行けたのに」


 走りながら会話をする。

 外に出るために孤児院の中を走り回っていた。

 そろそろここから出ないとグータンが中に入ってきそうでヤバい。

 

「なにを言っとる。わしが若いころは鬼の炎使いとして恐れられておったんじゃぞ。馬鹿にするでない!」


「鬼の炎使いって……いい歳してなに言ってんだ、あんた……」


「本当じゃのにぃぃ!」


 あきれるぞホント。


「って、そんなことしてる場合じゃなかろう! 早く行かねば……」


「爺さんが最初に言い出したんだけどな」


「もう、そんなことはどうでもいい。……とりあえず、こっちじゃ」


 一度止まり、壁の方を指さす。

 見ると、窓があり、そのまま進めば外に行けそうだった。

 まあ、壁があるから無理なんだけどね。


「こっちって言われても、そこは壁だぞ。ついに頭おかしくなったか?」


「壁か……違うぞ。ファクト、こうするんじゃ……」


 そういうと、壁に向かって手を掲げ。


「我が清廉なる紅蓮の炎。壮大なる青き炎よ。この大地を破壊し、敵を駆逐すべく、我がこの手に莫大なる力を! フレイムバースト!」


 そう言った。

 その瞬間、爆音が部屋中に轟く。 

 あまりの音の大きさにとっさに目を閉じ、耳を塞いだ。


 な、なんだ……

 いまのは何なんだ……


「う……うぅ……」

 

 ゆっくりと目を開け、その景色を見る。

 

「ま、マジかよ……これ……」


 壁は完全に破壊されていて、そこには穴があいていた。

 人が3人くらいなら簡単に通れそうな大きな穴だ。

 これってまさか……まさか……


「魔法ってやつなのか!?」


「そう、その通りじゃ。これはフレイムバーストといってなグータンも至近距離でこれを食らえば倒せるだろう」


「マジか!?」


 それって結構凄いんじゃね。

 しかもあんな威力を出せるってまさか……さっきの異名って本当なのかもしれないな。


「大マジじゃ。まあ一つ欠点があるとすれば、いまのわしにとってこの魔法はちと強力過ぎる。魔力が……」


 そう言いながらくらっと倒れそうになる。

 

「おい、大丈夫か!?」


 爺さんのところに駆け込む。

 どこか、さっきの魔法で怪我でもしたのか見てみるが、表面的にはなさそうだった。どういうことだ!?


「ああ、ちょっとな。魔力の消費が強いのじゃ」


「じゃあなんで使ったんだよ!? どうせカッコつけたかっただけだろ! このおいぼれジジイ!」


 魔力の消費が多すぎるとこうなるってことかよ。なんだ、心配して損した。

 だから外見上は怪我をしてなかったのか。


「な、なぜそれを!? ……ち、違うぞ。別にカッコつけたかったとかじゃないぞ!?」


「今更言い直しても遅いわ。バレバレだわ!」


 ぐぬぬぬぬとか言いながら顔が引きつっている。


「っていかんいかん。こんなことしてる場合じゃない。おい、さっさと行くぞ」


「わかっとるわい!」


 また走り出した。

 壁にあいた穴のところから外に出る。

 

「あ! いた! あれじゃないか!」


 すぐにグータンを見つける。 

 走っている音と、大きさもかなりの物なので一瞬で見つけることが出来た。


「でもあのままじゃ……屋敷に突っ込む……」


 見つけたはいいもののこのまま突進すれば、屋敷の中に突っ込んでくる。

 こんなところに突進なんかすれば、この孤児院が壊れるかもしれない。

 一体、どうすれば……


「あのグータンを引き付ける。簡単には無理じゃな。だが、こういうときも魔法というのは役に立つのじゃ。行くぞ!」


「おいおいまさか……」


 嫌な予感がする。 

 やめさせようとするが、ちょっとばっかり遅すぎた。


「我が清廉なる紅蓮の炎。壮大なる青き炎よ。この大地を破壊し、敵を駆逐すべく、我がこの手に莫大なる力を! フレイムバースト!」


 今度は壁ではなく――空に対して魔法を使った。

 青く輝いている炎が柱のように、そびえたった。

 

「おお……!?」


 近くにいると少し暑かった。

 よくこんな魔法を使ったのにさっきの壁は燃えなかったよなとか本人は熱くないのかなとか色々頭の中で出て来るが、一旦その思考を止め、爺さんの方に向かった。


「おい大丈夫なのかよそんなに魔法を使って!」


 その場で爺さんが苦しそうに倒れる。


「……いや結構キツイ……立ってるのもキツイくらいじゃ……」


「馬鹿野郎。なにやってやがる……引き付けるのはいいけど、もう少し適度ってやつをだな……」


「一応言っておくが、わしはもう走れん。魔力切れじゃ。昔とは違ってこれしか残っていなかったのは想定外じゃった。もっとできると思っていたんじゃがなダメだった」


「アホだろ。喋らないでいいから安静にしてろよ」


「頼む……運んでくれ……」


 ぐったりとする。全く力が出ていなさそうだ。

 言われた通り、運ばないといけないらしい。


 爺さんを持ち、おんぶする。

 

「……ちなみに言っておくが、さっきの魔法はグータンを引き寄せるための物。つまりそろそろ……」


 ドスン! ドスン!

 大きな足音が聞こえて来る。さっきとは違い、地面が揺れるくらいの大きさだ。


「これって……」


 後ろを振り向く。

 そこには。


「マジかよおおおおおおおおおお!」


 追いかけて来ていたのだ。グータンが。

 それを見た瞬間、体が本能的に走り出した。

 

「クソ! 何なんだよ!!」


「すまんの……わしのせいで」


「爺さんはもう喋んじゃねぇ!」 


 爺さんを背負ってるせいでうまく走れない。

 正直めちゃ重い。10歳に背負わせるものじゃないだろこれ。

 

「でも、逃げないと死ぬぅぅ!」


 後ろを振り向けば、グータンがさっきよりも近い距離にいた。

 これは非常にゆゆ式事態だ。

 本当に死ぬかもしれない。


「どうにかしないと……でもどうすれば……」


 わからない。

 なにをすればいいかわからない。

 このまま進んだとしても間違いなくやられる。

 爺さんの魔法でならグータンを倒せるらしいが、いまはこんな状況だ。それも期待はできない。


「……いや待てよ。まだ俺には……スキルがある! 使えるかもしれない!」


 スキルのことを思い出す。

 もしかしたらなにかがあるかもしれない。

 見る価値は……ある!


 後ろを一瞬振り返り、目に力を入れ、スキルを発動させる。発動させてからすぐに走るのを再開した。

 スキルはやつの体をとらえた。 


 頼む……なにか、なにか……こい!


 素材:グータンの皮

 硬度:測定不可

 弱点;爆発


「え……」


 驚きが隠せない。

 

 なんで素材以外にも硬度と弱点があるんだ!?

 ミクの下着の時と同じ感じだ。

 あっちも大きさがあった。今度は硬度と弱点だったってことかな。


 ……よくわからないけど、弱点がわかったなら好都合だ。

 爆発にはこいつらグータンは弱いってことだ。

 まあ、弱点がわかったところで爆破なんてできないんだけどね!


「マズくない!? これマジで死ぬの!?」


 どうしようもなくなった。

  

 そう、そんな時だった。


「……?」


 走った反動でポケットからあるものが出て来て、宙を舞った。


「……これは……小麦粉……!」


 さっきの実験で使った小麦粉の袋だった。

 そういえば、ミクから隠すためにポケットにしまったんだったっけ。すっかり忘れてた。


「……小麦粉ね……そういえば……小麦粉って……!?」


 そこで俺はあることを閃いた。昔、本で読んだ内容だった。

 空中に浮いた小麦粉の袋をタイミングよくキャッチし、もう一度ポケットにしまう。

 

「そうだ、これならこいつらを倒せるかもしれない……おい、爺さん!」


 辛そうに寝ていた爺さんをたたきおこす。


「な、何じゃ!?」


「あんた、後一回でいいから魔法は使えるか?」


「……あと一回くらいならまあなんとか……」


 苦しまみれに答える。

 結構辛そうだ。でもやらせるしかない。俺には魔法は使えないからな。


「よし! これならいける! 勝てるぞ!!」


 自信がわいてきた。

 小麦粉に魔法。そして爆発。すべてがかみ合った。

 やろう! 絶対に倒してやるぜ、グータン!


 


 

 

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