第2話 最悪の出来事

「よし、ただいま!」


 俺の部屋に帰ってきた。部屋の開いてあるところに本を起き、そのまま寝っ転がる。めっちゃ、気持ちがいい。


「ふう……てか、よくよく考えると暇だな」

 

 なんとなく浮かれて、こっちに戻ってきちゃったけど、なにしてようかな。

 ご飯も食べちゃってお腹空いてないし、いまあいつらと遊ぼうとしたら、このスキルのこと言ってしまいそうだ。

 こういうのは隠しておいて、後々ひけらかすのがかっこいいんだよな。

 だから読み聞かせまでガマンだ。ガマンだぞ俺!

 

「っていっても肝心の読み聞かせまでまだまだ時間があるんだよな……うーん、マジでどうしようか。……あ、そうだ。それならこの能力のことを研究でもするか。どこまでがわかるのとか知りたいし」


 万物を見通す目ファクト アイを研究することになった。

 スキルと言ってもまだまだ未知数。なにがあるかわからないしな。それに実験ってなんか頭良さそうで非常にいい感じだ。

 まずは、どれくらいの距離でなら発揮するのから始めることにする。

 

「う~んまずはこの至近距離でこの壁を……」


 目の前で壁を見つめてみる。 

 予想通り、材料:木材という文字が映し出される。

 

「まあこんな近かったら行けるわな。じゃあちょっと後ろに下がってっと……」


 少し1mくらい下がってじっくりとみてみる。

 これもまだ映った。


「じゃあ最後に壁の端まで来たら……」


 じっと見てみるが、映らない。

 文字はなく、ただ単に壁しかなかった。

 普通の壁だった。


「なんでだよ!? たった3mくらいでこれかよ。範囲少なすぎるでしょ。なにこの能力!? ……いや、まだだ。まだわからない。……次の実験に行こう」


 思ったより……あれだったが、今度はどんなことまで見れるのかを実験してみる。

 例えば、あそこの本だ。

 本の素材は紙だが、ページ数や題名はものによって違う。

 そういうことは書かれるのかの実験だ。


「よし……行くぞ。ほい!」


 見てみるが……


「材料:紙しか書かれてねぇ……前にミクの下着を見た時はカップの大きさとか出てたのに……マジで意味わかんね……なんでた!?」


 ダメらしい。

 期待してたものはなにも出なかった。結構期待してたのに……


 ていうか下着との差ってなんなんだよ!?

 謎が深まってくばかりだ。

 

「ま、まあこれで諦めるような俺じゃあねぇ……次だ次!」


 実験を続けていく。

 今度はどれくらいの目を開ければ出来るのか……そしてその次は……


「はぁはぁ……つ、疲れた……」


 何分、何時間経過しただろう。

 俺の体はもうボロボロだった。へとへとになっていた。

 眠るようにベッドの上に飛び乗り、そして考える。


「なにこれ、なにこの能力! 全然いいところなんかないじゃん。何一つ自慢に出来るところなんてないじゃん! この後どうすればいいっていうんだよ!!」


 いろんな実験をしたはいいもののろくにいい成果も出ない。

 小麦粉のような小さなものは文字としてでるのかとか、宙に舞ってるのは見れるのかとかやってみたけど、別に驚きの発見とかはなかった。


 本当にどうしてこうなった。

 ……マジ意味わからん。誰か教えてくれ……


「もうダメだ。おしまいだ……」


 やる気がわいてこない。

 正直に言って普通に寝たい。

 そんなことをしていると、誰かが部屋に入って来た。

 ミクだった。

 

「ってファクト、あんたはなにしてんのよ。独り言吐きながらとか気持ち悪……」


 本当に引いている目で俺をにらむ。

 すぐに俺はさっき実験に使っていた小麦粉の袋をバレないように服のポケットに隠す。


「げ……ミク聞いてたのか!?」


「いいえ……あんたがぶつぶつ呟きながら、変なことやってるのなんか見てないわよ」


「見てんじゃねーか!」


 どうやらばっちり見られていたらしい。

 最悪だ。めちゃ恥ずかしい……だってどう見ても変なことやってるとしか思えないでしょ。スキルのこと知らないのもあるし。ああ……もう……どうしたらいいんだ!?


「それで、さっきからなにしてたのよ」


「べ、別に……」


「……そう言いたくないならいいわよ。どうせ、あんたのことだから頭のおかしいことだと思うし」


「俺への偏見凄くない!? 俺、お前になにかした!?」


 ほんと、こいつといると調子が狂うぜ。

 なんでここまでとげのある言葉が言えるんだよ!

 ……なんかそう思うと一回くらい殴ってもいい気がしてきた。殴っていい?


「ふん、まあいいわ。それよりもご飯らしいわよ。さっさと食べてましょう。読み聞かせってやつするんでしょ。一応……私も出るから早くしてよね」


「わ、わかってるよ。行くよ……」


 まあ結局殴らないんですけどね。

 ……殴ったら倍以上で返されそうで怖いし。


 そしていつも通り、食堂にへ進んでいく。

 なんだろう。いつもより足取りが重い。緊張しているのか。

 まあ無理もないか。


「早く来なさいよ」


 そんなことをやっていると怒られた。

 ちょっと足を速めて行く。

 すぐに食堂につき、近くにはリンとシンがたわむれているようだった。


「あ、ファクトお兄ちゃん来たー!」


「よ。これが終わったら読み聞かせな」


「「うん!!」」


 二人が嬉しそうにつぶやく。

 もうここまで来たらやるしかない。読み聞かせをしつつ、スキルのことを打ち明けよう。


 別にそこまでの力はなかったとしても一応はスキルなのだ。

 これでも自慢になるだろう。うん……なるに違いない。……そうだよな? そう思うことにしよう。

 まあ、打ち明けないっていう手もあるけど、それってなんか味気ないし、楽しくないからな。言った方がいいだろう。


 そして相変わらずの会話をしつつ、ご飯を食べ終わった。


「ふう……食った食った。ご馳走様」


「うむ、ごちそうさまじゃ」


 あいさつをして終わる。


「よし、お前ら。俺の部屋に一緒に来くぞ。読み聞かせだけじゃなくて面白い話もあるから覚悟して聞けよ」


「面白い話って?」


「それを今行ったら面白くなくなるだろうが……馬鹿か」


 リンに答える。

 なにを言いだすんだこいつは。


「あら、面白い話ならあるわ。さっきファクトがね、一人でぶつぶつなんか言いながら……壁に……」


「それは言わなくていいから。全然面白くないから!」


「え~面白そうじゃん。続き教えてよ、ミク」


「えっとね……」


「いうんじゃねーよ! ていうかシン。お前も聞いてんじゃねぇ!」


「あはははは……」


「笑い事じゃねーから!」


 笑い声が食堂に響く。

 爺さんも聞いていたらしく少し笑っている。

 なんかちょっと恥ずかしい。


「……もういいだろ。さっさと行くぞ。早く来ない子には読み聞かせしません」


「分かりました、隊長。行きましょう!」


「急にいい子ぶるのはやめろ! 後、隊長呼びもやめろ」


 そんな会話をかわしつつ、俺の部屋へと戻っていく。

 

「よしついた」


 食堂から近いので一瞬で着いた。


「おお……やっぱりファクトお兄ちゃんの部屋ってなんか凄いね。本とかいっぱいあるし」


 確かにそこらじゅうに本が散らばっている。

 適当に図書室を漁って出て来た本を片付けるのは面倒なので置いているだけなんだけど……

 好意的に受け取ってくれるならいいか。


「じゃあ読み聞かせを始めるか」


「「うん! やろやろ!!」」


 元気いっぱいのようだ。

 みんな俺のベットの上に座り、俺も本をもって座る。

 そして、俺はそれに従って始めることにする。


「ごほん……まずお前ら……スキルって知ってるか?」


「なにそれ……」


 全員知らなそうに首をかしげる。

 やっぱり知らないか。

 俺もこの本で知ったばっかだし、当たり前ちゃ当たり前なんだけど。


「スキルってのは、特殊能力みたいなもので、たまに持ってる人が居るらしいんだ」


「ふぅん……それがどうかしたのかしら? まさかあんたにはあるっていうんじゃないでしょうね」


 よくぞ聞いてくれたミクよ。

 

「実はそのことなんだけど……俺には……」


 スキルがあるんだと自慢しようとした瞬間。

 ドスン! と小さいが足音が聞こえて来た。


「ってな、なんだ!?」


 しかも一度ではない。何度も、何度もだ。

 いくら小さいと言えど、何回も聞こえてくれば流石に気にはなるし、イライラする。

 ということで一旦、話を止めることにして本を閉じて、部屋の窓の近くに行く。


「ふざけんなよ。せっかく俺がいいこと話そうとしてたのに……」


 最悪だよ。もう。……一体何事だっていうんだ……


 そして、それを見て、足が自然と止まる。なにも考えられない。

 

「……ねえあれって……」

 

 ミクが俺の後についてきて、それを見たらしい。

 こっちも考えが追い付いてなさそうだ。

 

 ……頭が働かない。

 見た時から体がどうしていいのかわからず、全く動かない。

 正直に言ってしまえば、怖い。


「なんだあれ……何なんだよあれ……」


 イノシシのような動物が奥の山の方から数十匹でこっちに向かってくる姿がそこにはあった。

 


 この孤児で育って10年。

 最悪といっても過言ではない出来事と遭遇した。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る