第1話 万物を見通す目

「あれから半日が経過したってのに、一向に治る気がしない……大丈夫なのか……? ていうか、なんなんだよ、これ!?」」


 ご飯を食べ終わり、自室のベットで寝ころびながら思う。

 物をじっと見つめると、文字が浮かび上がってくる。


 例えば、そこにある壁をじーっと見ると、不思議と材料:木材という文字が浮かび上がってみえた。

 これは木材で作られているってことだろう。


「はぁ……意味わからん。これが魔法って奴なのか。……いや、違うな。だって魔法ならば詠唱が必要と書いてあったし、こんな奴は本にも書いてなかった。じゃあなんだっていうんだ……」


 言葉にしてみると謎が深まるばかりだ。

 材料が書いてあるし、勝手に文字が浮かび上がるし。

 さっきまでなにもなかったのに急になにが起こったっていうんだろう。


「魔法があるって言うし、それに近いなにかなんだろう。……でもそれにしたってさ、なにこの使えなさそうなゴミ能力。なんかもらえるんなら、もう少し使える能力が良かったよ。こんな材料を見るとか頭のおかしい能力じゃねーか!」


 マジで弱そう。偏見とかじゃなく、マジで。


「普通なら……ここで最強の能力が出て、敵をなぎ倒したりするのが物語って感じじゃねーか。そんな展開を期待してたのに……一体なんでだ……」


 本で読んで知っているからこそ悲しい。

 あまりにも現実的すぎる。


「……まあ仕方ないか。別に生活に支障があるってことはなさそうだからな。むしろプラスって感じだし。とりあえず、明日になったらどんな感じなのか調べてみるか。いまは眠いから……ふわぁ……おやすみ」


 俺はそのまま寝てしまう。

 ご飯を食べたから眠くなったんだ。仕方ない。

 ……そういえば、本回収し忘れた。あの木の近くに置いておいたままじゃないか。……明日とりに行くとするか。


 そして眠りにつくといつの間にか、翌日になる。


「……んぅぅぅ。眠い……」


 キーンコーンカーンコーン。

 キーンコーンカーンコーン。


 孤児院の中にあるチャイムがなる。

 朝、7時にチャイムが鳴り、それにそってみんな起きることになっている。


「もう7時かよ。早いな……朝食もあるし、起きるとするか……」


 ベットから体を起こす。

 ちょっと痛い。寝相が悪かったのかな。


「ふわぁ……まずは朝食を食べないとな。実験はその後だ」


 朝食を食べに行く。

 行く途中でミクと会った。

 

「ああ、ファクトじゃ。凄く、眠そうで馬鹿みたいな顔してるわね。なんかあったのかしら?」


「あはは……まあな」

 

 朝だからか。もう言い返すのも面倒くさい。

 眠たいから頭もまわんないし。


「……よくわからないけど、早く行くわよ。遅れるとまたみんな食べれないんだから」


「わかってるよ。今行くつもりだったし」


 一緒に食堂まで歩いていく。

 あんまり喋んないからちょっと変な雰囲気だ。き、気まずい……


 そこでふと思ったことがある。


 もしかしてこいつが来ている服の素材とかわかるんじゃね。

 別にどうでもいいんだけど、なんか女子が来ているものの素材がわかるってなんか……いいな。調べてみよう。


 俺はじっくりと観察する。

 すると、白の服から透けている、黒の下着の方がロックオンされる。

 

 おいおいマジかよ。そんなのありなんですか!?

 てっきり服とかを見ると思ってたのにまさかの下着かよ!?

 

 俺も誠実で真摯な人と言っても、一応は男だ。こういうことも少しだけ……ほんの少しだけ気になる。……正直にいえば、ちょっとわくわくしてきた。

 

 そんなことを考えていると、下着の情報が浮かび上がってくる。


 材料:天然繊維。

 カップサイズ:90㎝。

 

 おお! 凄い、凄いぞ! 今度は材料だけじゃなくて、サイズとかも出て来るのか。凄い発見だ。


 もしかしてこの能力、こういうことに関してだけは優秀なのでは!?

 なんかこの能力を使って怪しいことも出来そうだし、普通にお金稼げそうだぞ!!

 ……流石にやらないけどさ。


 それにしても、カップサイズが90㎝ってことはCとかDカップってことか……こいつ、ほとんどないと思ってたけど意外とあるんだな……

 今度は下の方を見てみるか。透けたりは……しないか。

 

 ちょっとだけ、期待をしながら俺は次に上から下の方へ視線を動かそうとする。

 しかし。


「……ねぇ、さっきからなんでじろじろと見て来るのよ。なにか用でもあるの? なんか気持ち悪いんだけど」


「……いや、別に……」


「そう、ならこっち見ないでよ。なんか知らないけど、べたべたした視線を感じたような……うぅ……気持ち悪い」


「おう……」


 辛辣……どうしてここまで言われなきゃいけないんだろう。こいつは本のようなツンデレとは違う。ツンしかない。デレがない!


「ふん……」


 そう、言ってからそのまま食堂に消えていく。 

 ちょっと遅れてから俺も付いていく。


 えっと……とりあえず……すんません。変なことしてすんません。

 ていうか、女の子って勘が凄いんだね。普通に見られてたことバレてたし。

 初めて知ったよ。鋭すぎるでしょ……しかもめっちゃ怖かったし!

 次からはミクに能力を使うのは止めといたほうがいいな……


「はぁ……まあいいや。早くご飯食べよう。本も読みたいし」

 

 食堂に行く。

 やっぱりみんな来ていた。

 

「遅いよ、ファクトお兄ちゃん」


「悪い悪い」


「よし、そろったみたいだし、ご飯を頂こうじゃないか」


 爺さんが言う。

 そしていただきますをした。

 今日の朝食はパンだった。


「……ねぇ、ファクト。読み聞かせって今日やるの?」


 ミクが聞いてくる。

 ああ、そういえば昨日決めたっけ。

 能力のやつのせいですっかり忘れてたぜ。


「わかった。今日やろう」


「「やったー!!」」


「お前ら……そんなに喜ぶことなのか?」


「うん、ファクトお兄ちゃんと一緒に遊べるんだもん。最近はあんまりだったし、楽しみだよ!!」


「……そういうもんなのか?」


「そういうものなの!」


「……そうかい。なら早く飯を食えよ。俺はちょっと本でも読んでくるから……」


「「うん!!」」


 みんながうなずく。

 俺はご飯を食べ終わったので、立ち上がった。


 そしてそのままあの場所。本が置いてある場所に向かう。

 雨がない日はいつもあそこで遊んでいる。なんだか落ち着くし、気持ちがいいからだ。


 てなわけでついた。

 早速置いてある、本を読み始める。


「ん? 魔法の話に続きがあるじゃん。なんだよこれ」


 ふと図書室の端の方に置いてあったから読んでみた本だったけど、凄いなこれ。

 普通に面白い。


「えっとなになに……魔法の他に、この世にはスキルと呼ばれるものがある。それは目覚める物もいれば目覚めない者もいる特殊なもので、魔法とは全くといっていい程異なるもの。そして特別な能力だ……か。ふーん、そういうのもあるのか」


 ページがまだまだあったので、もっと読み進めて行く。

 結構長い。辞書ってレベルだ。


「スキルの能力は人によって様々で、能力の質も違う。魔法の効果を上げたりするものもあれば関係のないものもある。目覚めるときは決まって、なにかを強く願ったときである。……なるほどなぁ……なにかを願ったらスキルってのは発言するのか。ん? 願ったら発言する特別な能力……」


 あれ……どこかで聞いたことっていうか体験してるというか……


 そこで俺の頭がある結論を出す。 

 

「もしかして、この見通す能力のことじゃね!? 魔法でもなさそうだし。ていうか絶対そうだろ!? マジかよ!!」


 昨日から出て来た能力がスキルって奴に違いない。

 だって隠し味を知ろうと願っていたし、詠唱? とかも使ってないし!


「おお……なんか凄いな! 俺がこんな能力を手に入れるとは……後で読み聞かせの時、あいつらに教えてやるか。やっべ、わくわくしてきた」


 興奮が抑えられず、そのままページを進めて行く。

 

「……そして、スキルには名前をつけることが多く、大体のものはその能力を保有している本人がつける」


 そこからは魔法やスキルのことは書かれていなく、今度は魔物とか言う変なのが書かれていた。

 俺は本を閉じた。


「名前か……どうしようかな。……適当な奴にでもしとくか。よくわからんし、面倒くさいしな」


 こういうのはあまり得意じゃない。

 絶対変なのになるし。 

 

「う~ん、じゃあいろんなものを見通すってことで万物を見通す目ファクト アイとかにしとくか。なんかダサそうだけど」


 てなわけで軽いノリで能力の名前が決まった。今度から万物を見通す目ファクト アイって呼ぶことにしよう。


 ……ホントにダサいな! もう少しましな奴なかったのかよ!? 自分の名前を使うとかキモすぎる!!

 でもどうせ考えたところでいい名前なんか思いつかないし、これで……いいか。


 俺は自分のセンスに絶望しながらも立ち上がり、自室に戻ろうとする。

 そこで、読み聞かせのことを考える。


「……あいつらに教えたら、どんな反応をするかな! めちゃくちゃ気になる。きっとミクとかはだからなに? とか冷たくしてきそうだな……だけど、他のやつらは凄いだとか、カッコイイだとか言いそうだな……そう考えるとミクって酷くない!? なんで俺のことあんなに毛嫌いしてんの!? 一緒に暮らしてるのに!」


 そんなことを思いながら、帰っていく。

 


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