第3話 やっぱこれだね。エルフとオーク
ーーオークの隠れ里~シャドウとの出会い~
あったあった。これこれ。このシーンだ。フォルダ分けしていると探すの楽よねえ。
彼ってば冒険に浮かれて町の人たちから聞いた噂を頼りに、女を攫うオーク達の隠れ里を発見したのよ。勿論熱烈な歓迎を受けたんだけどね、そこはほら、わた、ゲフンゲフン。神様からいただいたスキルでちょちょいのちょいって奴?
で、死屍累々のオークやゴブリンで出来た死体の山で、彼ってば出会ったんだよねえ。懐かしい。このころのシャドウちゃんは尖ってたなあ。
「私を助けて油断させて、今度は人間相手に奴隷として売る気か?」
「まあ、あんたにとっちゃそういう展開だよね」
「くっ、私はいくら汚れても、心までは貴様らに」
「汚れてるって言っても、綺麗じゃん。髪だって艶あるし、風呂とか入れてもらってたの?」
「黙れ! 我々は穢れを拒む一族だ! だからこそ貴様らのような人を人とも思わぬやつらの玩具になど」
「逃げ去ったオークってさ、話通じる奴だと思う?あとこの辺に遺跡とかってある? もしくは地図とか」
このころは革手を身に着けていなかった彼は、あっけらかんとした今より少し陽気な声で、鎖に縛られているシャドウに話しかけている。
先ほども紹介したが、ここはオークの隠れ里。オークってのは、イノシシのような顔を持ち巨大な苔むした岩のような体を持つ鬼のことで、ここには大鬼ともいえるオークと、彼らの子分のようなだ同じく緑の小鬼、ゴブリンたちが住んでるの。
で、そんな鬼たちに捕えられたシャドウは、鬼に好かれて味見をされる直前、奇しくも彼と出会った。
「あー、やー、ハロー、こんにちは。元気?」
「なんだそれは。呪文か?」
彼の言葉にシャドウは警戒心を更に引き上げて、彼女はオークたちに脱がされた服の代わりに、長い足を体育座りのように畳、体を丸めている。
「挨拶的な? ごきげんようってやつ。ていうかその格好恥ずかしいなら、これでも着なよ」
そう言って彼は、彼女の体を覆うように着ていたマントを羽織る。
「で、ここのボスが何だって?」
「そ、そうだ! 今すぐ私の鎖を断ち切る斧か、カギを持ってきてくれ。お前が倒したのは、ただの雑魚だ!」
「雑魚ねえ。たくさん倒せば経験値上がるかな。ってか鎖解いてほしいならそう言ってよ。はい、これで良いでしょ?」
じゅわっと金属が解ける音と共に、シャドウを拘束していた鎖の鍵部が解けて拘束していた鎖が緩む。
「悠長なことを言っている場合か! って、ええ!?」
あまりの温度差でシャドウは立ち上がったものの、そのあっけなさに驚きたじろいでしまう。その結果、立ち上がりマントも床に落ち、隠していた二つの巨峰が彼の前に露になる。
「これで良いんでしょ? で、話しがしたいんだけど、その前にマントでも着る?」
彼は彼女の肢体に動じることなく、落ちていた自分のマントを彼女に手渡している。紳士!マジ紳士! シャドウもチョロインのごとく、赤ら顔で彼に「す、すまない」って礼を言ってる!でも個々の見どころはそこじゃない!
彼が真摯なふりをしつつ、よく見ればシャドウと同様に赤ら顔なんだな。これが。そして下腹部より下をよく見れば、
「っ、来たぞ!」
あー、はいはい。そうでした。図った様にこのタイミングで来るんだよなあ、空気読めよ。オーク。
雄たけびを上げて石の斧を手に持つオークは、先ほど彼が倒したオークたちよりも二回りほど大きな体を持ち、二人の前に現れた。
「逃げろ! 人間!」
「いや、捕まってたやつがそれ言う?」
「人間に借りは作らない主義だ!」
シャドウと痴話げんかを始める彼に対し、親分オークは鼻息荒くシャドウの方をじっと見てよだれをこぼした。その姿を前に緊張感を高めるシャドウだが、彼は呑気に親分オークとコミュニケーションを試みていた。
「あのさー」
「馬鹿か貴様‼ 先ほど子分どもと会話が通じていなかっただろうが‼ こいつらに言葉が通じるわけが‼ しまった!」
シャドウは背後から現れた数匹のゴブリンに不覚をとり、手足に手錠をかけられてしまう。そして動きがとれなくなり、二匹のゴブリンに神輿のように担がれ、攫われそうになってしまった。
「人間‼ 逃げろ!」
そんな無様な状態でもダークエルフの誇りとやらで気高い言葉を吐く姿は立派だが、彼はため息をついて一瞬で彼女をゴブリンたちから取返し、肩に担いでいた。
「お、おい! 降ろせ! きゃあ!」
じたばたと彼の肩で暴れるシャドウを見ずに、彼は人質を取ることに失敗したゴブリンたちの末を見た。必死になにか言い訳をしているゴブリンに対し、制裁を下すように親分は持っていた斧を振り下ろしたのだ。
まるで丸めた新聞紙でつぶされた害虫のような姿となったゴブリン達を前に、親分は次はお前だというように、彼の方を見て斧を担ぎなおした。
「お前の言う通りだな」
「そうだ!だから今すぐ! うわっ!」
彼は肩に担いでいたシャドウを肩からおろし、彼女の視界を塞ぐようにマントをかぶせた。それは彼にとって、何も言うな。何も見るな。という思いでもあった。
「一応聞いておくが、俺の言葉分かるか?」
彼は無謀にもこの世界でも化け物に分類されるオークの親玉とコミュニケーションを取ろうとしていた。そういうところが平和ボケ感がぬぐえていなくて、また庇護欲にそそられる。
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