そんなことをしたらセンセイの政治生命が終わってしまう
するとブーイングが巻き起こる。
「なんだ、あのピアノ。金払いも良いと言ったばかりだろうに」
ピアニストはお払い箱になった。
店主はあらためて「ピアノの弾き手を探しているんだが」と群衆に言ったが黒柳はそれとは別に
「ピアノ以外が弾けて、金を払うに値するピアニストは?」と聞いた。
するとさっきのピアニストは「もっと価値のあるものを弾かせてくれれば、金を支払う価値が出るね」と言う。
「この野郎。わざと下手弾いたのか。金欲しさに」
黒柳が殴りかかると店長が仲裁した。
「ピアノの演奏を聞かせてくれ、耳朶は消えてしまうように」と売り言葉に乗って叫んでいると「なんて事言うんだ。どいつもこいつも」と言ってピアノ職人が店を飛び出した。
「そうか! そういうことか! ゲスどもが揃いも揃って!芸術より金かよ」
黒柳は怒り心頭だった。ピアノ屋は土浦の天井に耳朶を養殖していたのだ。
もちろん内緒で。薄々感づいてはいたが確証が乏しかった。
「だから黒柳先生を巻き込んだんですね」
壁の中から女の声がした。
「ああ、そうさ。このやっかいな
黒柳は店に舞い戻った、ピアノ屋はまだエクササイズを催そうと粘っていた。
そりゃそうだ。野次馬が集まっている。またとない宣伝の機会だ。
黒柳は店主をじっと見た。
ピアノ屋はピアノの前に座って耳朶の除去をやっていたのだ。
黒柳は「どういう事だ?」と声をかけると男は黙って「ピアノの弾き手を探しているんだ。金は払わないといけないかな?」と言った。
黒柳はピアノを弾きながら聞いた。
「テロを起こしたいんならな。シミの男を煽れとセンセイに言われただろう」
するとピアノ男は「お前は山田さんの何なんだ?」という。
「それはこっちの台詞だ。あんたが公設秘書だって壁の街で聞いちまった」
「なん…だと?」
「対立候補の
「そんなことをしたらセンセイの政治生命が終わってしまう。あほか!」
「鳩尾のせいにすればいい。リベラル多数決党の黒いうわさが本当になる」
「……」
黒柳はポロンとピアノをつま弾いた。
「ピアニストは金をもらっていい。そのピアノの弾き手はピアノ職人だ。
金を払ってもいい」
そうすることで政治資金の流れは断ち切られ陰謀が未遂に終わる。
黒柳はまた「ピアノの弾き手はピアノ職人だ。
金を払ってもいいと言うのはピアニストで金を払っていないピアノ職人だ。
金は払わないといけない」と言った。
ピアノ店主は黙り、黒柳はピアノから離れた。
男はまたピアノを弾き始めた。
黒柳はただピアノ店主を眺めていた。
話が終わり店主が帰りながらピアノ職人に近づいた。
「あいつはろくにピアノが弾けない。調律は出来てもピアニストじゃない」
店長は聴衆が「ピアノ職人の演奏」を聞いてしまうと言う。
「だがピアノ愛は誰より謡えるよな?」
黒柳が詰め寄った。
ピアノの弾き手を誰に頼むのか聞くと店長はピアノ職人に金を払うと言う。
黒柳は名曲「誰ぞ弾く」を歌い始めた。
♪ピアノ男がピアノの弾き手を探しているのです。
金は払わないといけないね♪
黒柳はピアノ男を思い返した。
♪ピアノの奏でる音が、鍵盤の上に舞い、ピアノの奏でる音色が、響き、ピアノの音が、演奏したい気分を盛り立てている。
ピアノの音。ピアノの伴奏の音色。
ピアノの音色に合わせて、ピアノの演奏者は奏でたい気分を歌う。
ピアノの演奏者はピアノで演奏者を指揮する♪
鍵盤の物静かな響きがだんだんと高まり情熱を呼び出す。
店主がひざまづいて泣き出した
♪楽器で演奏者の音を演奏したい気分を歌う。
ピアノの演奏者はピアノで演奏したい気持ちを歌う。
ピアノの演奏者はピアノで演奏者に歌を歌う。
ピアノの演奏者はピアノで演奏者の気持ちを歌う。
ピアノの演奏者はピアノで演奏者に歌を歌う♪
弾き手はそのピアノの演奏者に、演奏者にはピアノの演奏者の気持ちを歌う
。
ピアノの演奏者が演奏する音を、ピアノの演奏者はただ聴いている。
ピアノの響きがピアノの演奏者を包んでいた。ピアノの演奏者の気持ちがピアノの演奏者にそのまま引き継がれたように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます