第61話
俺たちは夢の国への一歩を踏み出した。平日だと言うのに、なかなかに混みあっている。
子供のように、はしゃいでいる志乃ちゃんとはぐれないか、心配である。
周りをキョロキョロとみ回している姿は、暗殺者だった頃の冷静さやクールさは捨ててしまっている。
俺が見つめているのに気づいたのか、くるりと後ろを振り返った志乃ちゃんが、少し恥ずかしそうに左手を俺に向かって差し出した。
「はぐれたくないから、手……繋ご?」
「何を今更、恥ずかしがってるの?可愛いなぁ、やっぱり志乃ちゃんは」
俺がそう言って繋ごうとすると、目の前から志乃ちゃんの左手が姿を消した。
またさらわれたのかと思い、焦って前を見ると頬をふくらませた、志乃ちゃんが立っていた。
「意地悪な相模とは手を繋いであげません。それに……こういうデートっぽいの初めてなんだ。仕方ないだろ……」
「なんだよ、それ……。可愛すぎるだろ」
「ほら、また可愛いとか……言うんだから」
そう言って怒っている素振りは見せているが、ニヤニヤと口角が上がっているところから満更でもないんだなと思う。
仕方ない、元童貞だった俺がエスコートする日がついに来たというのか……。俺は意を決して志乃ちゃんの手を繋いで、入場口へと進んでいった。
◆
エスコートしてやる、そう思っていた時期が俺にもありました。正直いって、志乃ちゃんが一、女の子であるということを忘れていたかもしれません。
彼女たちは無限の体力を持っています。テンションは常にMAXです。
「ミッ〇ーマウスがいる!相模早く!!」
「待ってくれ、そんなに走らなくてもミッ〇ーは逃げないって!」
俺の静止を聞かずして、ミッ〇ーの元へと駆け寄る志乃ちゃん。そしてクソネズミに向かって抱きついた。
「ハハッ、夢の国へようこそ!」
「キャーっ!可愛いっ!!」
そう言って顔を擦り付ける。よし、このネズミは後で殺そう。どうせ、中で男がにちゃにちゃしてるんだろ。夢もねぇよ。
「ほら、お兄さんも一緒に!」
仕方ない、こいつと少しだけ戯れてやるか……。俺はネズミの元へと一目散に走っていった。
「ミッ〇ーーー!!♡ ♡」
「ハハッ!これでみんなお友達だよ!」
「「大好き、ミッ〇ー!!」」
俺たちは死ぬほど一緒に写真を取った。俺としたことが……。あいつのことなんて好きじゃないんだからな。志乃ちゃんが好きだって言うから絡んでやっただけで。
「相模、ミッ〇ー可愛かったね?」
「まじでそれな!」
……。仕方ないよな。俺が一人考えていると、志乃ちゃんは上で高速で動く乗り物に目を奪われていた。多分あれはジェットコースター……。恐怖の乗り物と聞く。
「あれに乗りたい!!」
「ウゲ……、まぁ、いいけど」
男として逃げることは出来ない。俺が前を走る志乃ちゃんに追いつこうと軽く走ると、後ろをふりかえって志乃ちゃんが言うのだった。
「生きててよかった!だって好きな人とこんなところに来れたんだもん!」
「夢の国だぁあ!」
俺は思っていたことが口に出てしまっていたが仕方ないことだろう。まだ楽しむぞぉ!
◆◆
更新を熱烈に待つ人のために描きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます