第57話
「私は身勝手な女だ·····」
そう言ってつぶやく志乃ちゃん。その声は少し元気がなさそうだった。思わず足を止めて話を聞く。
お姫様抱っこじゃ、話しずらいっていうから地面に立たせてあげた。そしてとぼとぼと歩きながら、また話し始めた。
「最初は相模を本気で殺そうと思っていた。捕まった時はどうやって逃げようか、そればかり考えてた」
「まぁ、俺でもそうするわな」
「でも、相模が優しく私にかまうからどんどんだめになっていっちゃって·····。仕舞いには、私が組織に捕まって殺されかけた時、命懸けで助けに来てくれた。嫌いだって言い続けてたのにさ·····」
そう言って、志乃ちゃんは歩みをとめた。そして俺のほうに向き直って、月光りに照らされる中、一際可愛い笑顔で言う。
「で、何が言いたかって言うとね?相模の事が大好きってこと」
「··········」
「な、何か言ってよ。恥ずかしい」
そう言って、顔を赤く染める志乃ちゃん。目を俺からそらすように、泳がせる。いい返事が思いつかない。あれだけ志乃ちゃんのことが好きなのに、なんて言っていいのか分からない。
だから俺は·····。目を泳がせている志乃ちゃんの唇を奪った。その柔らかい唇を。息が止まるくらいのキス。
「んんっ·····っ///あっう。ぷはっ」
二人とも息が限界になって離す。目をクラクラとさせた志乃ちゃんがこっちに向いてニヤリと笑った。
「ちなみに今のキスが初めてだから。責任とってよね」
そう言って人差し指を俺の胸の辺りにグリグリと当てる。それは痛いと言うよりかは心地いいくらいの。志乃ちゃんも恥ずかしいんだろう。
そんな不安を吹き飛ばすように、俺、渾身の笑みでプロポーズをして見せた。
「結婚しよっか、志乃ちゃん」
「け、結婚!?つ、付き合うとかじゃなく?」
「そりゃだって子供も欲しいし」
「こ、子供なんて·····。そういうことしなきゃだし·····」
そう言ってモジモジとする志乃ちゃん。なんて可愛いんだ。そんな姿を見ていたらいじめたくなる。
「そっか。志乃ちゃんがしてくれないなら、ほかの女の子で童貞捨てちゃおっかなぁ!」
「·····な、なぁ!?」
驚いた顔をしてから、顔を膨らませる志乃ちゃん。コロコロと変わる表情に俺の心も踊る。やっぱり、志乃ちゃんといるのは楽しい。
「·····ほかの女にうつつ抜かしてたら殺すから」
そう言って俺の袖をクイッと引っ張って、睨む志乃ちゃん。その睨みはいつもより鋭くなく、少し心配したような。
「じゃあ俺の童貞を貰ってくれると?」
「·····経験なしの私でいいなら。ったく、もう·····、なんでこんな人を好きになっちゃったかなぁ~」
「ほら、俺の胸に飛び込んでおいで」
そう言って両手を広げると、志乃ちゃんは周りに人がいないことを確認してから、俺の顔を見て、ため息をついてからちょこんと胸の中に入ってきた。
「·····ありがとう、相模。私を救ってくれて」
「いや、まぁ俺だけの力じゃないし。あいつらから救ったのは」
俺がそう言うと、志乃ちゃんは胸の中で首を小さく横に振った。そして声色を一段とふんわりとさせて、嬉しさを精一杯、声に乗せて。
「ちがうよ、私を孤独から救ってくれたのは相模だけ。だから、ありがとう。」
「はぁ·····志乃ちゃん、まじで好き·····」
そう言って抱きしめる力を強めた。苦しいと言いながらも嬉しそうな志乃ちゃんを見ながら、今も胸たかる心臓が収まるのを待った。
·····あと、とりあえずコンビニ寄ってゴムだけ買っといた。
♣♣
新連載しているので暇だったら見てくださいね。
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