第56話

俺が諦めて目を瞑るのと同時に、1つの銃声が部屋に響き渡った。気づくと志乃ちゃんに銃を向けていた男は地面に倒れていた。


「な、何が起こったぁああ?」


俺を殺そうとしていた、だるまは叫ぶ。俺も何があったのかと首を振ると、ドアの付近には見知った顔と、さっき見た顔。


「マヌケな姿ね、けいすけ」

「はぁ、最強がこんな姿とは·····。胸が苦しいです」


そんなふうに言う人達は一人は師匠。そしてもう一人は俺が考えるよりも先に、だるまが叫んでいた。


「No.23!何しているお前!?何をしたのかわかっているのか!」


興奮のあまり、声が若干裏返る。No.23と呼ばれる男はさっき交戦した男である。どういう風の吹き回しなのか。


「んー、端的に言うとお姉さんの願いだからですかね」

「私が彼に勝ったから、願い事を聞いてもらったのよ。志乃ちゃんを、いやけいすけを救って、ってさ」

「まぁ、そういうことですね」


そう言って頷く、No.23と呼ばれる男。どういうことなのか、よく理解するには時間がかかるだろう。でも唯一分かることは形勢が逆転したって言うことぐらいか。


「痛かったなぁ。良くも、俺の愛する人を人質に使ったくれたな。死ぬかと思ったぞ」


俺が口から垂れる血を拭いながら、つぶやくとだるまは苦虫を噛み潰したような顔をうかべる。

一方、志乃ちゃんはなんとも言えない顔を浮かべながら。


「相模は半分死にかけてたけどね。本当にださい·····」

「それは悪かったな」


俺は反省を活かして、先に志乃ちゃんを自由の身にしようとする。だるまは手錠の鍵は自分がとっていると、鼻で笑う。


そんなだるまを他所に手錠を力ずくで外す。金属が変形する。


「は、はぁ?どんな馬鹿力·····」

「伊達に最強、やってない」


そんなことを言いながら、笑いかけると顎を怪我しているのか、ぎこちない笑みを見せる。


が、志乃ちゃんは自分に怪我はほとんどないと言わんばかりにスクリと立ち上がって見せる。


「俺は学ぶ生き物でな。もう俺は志乃ちゃんを離さないって決めたから」


俺はそういった後、志乃ちゃんをお姫様抱っこで持ち上げた。そのまま歩き出して帰ろうとする。


「ば、馬鹿なの?こんなに馬鹿とは思わなかった。死にそうになったのに、またふざけて」

「志乃ちゃんがいなくなったと思ったんだ。もう離したくない」

「そういうことを言ってるんじゃない。この行為について·····だよ」


そう言って、恥ずかしそうに顔を隠す志乃ちゃん。この状況でトキメキを覚える志乃ちゃんも相当だ。


「·····あれっていつもあんな感じなんですか?お姉さん」

「う、うん。私もあの男が好きだった時期があったの。つい最近まで」


そんな冷えた声も聞こえてくる。そんなことはどうでもいい。早く帰って、志乃ちゃんとイチャイチャしたい。


まぁ、そんなこと許してくれる訳もなく、だるまは怒り心頭で俺の方に猛スピードで寄ってくる。


「お前、しつこい。もう俺と志乃ちゃんがピンチで仲を深める回は終わった」


俺は寄ってくるだるまを、志乃ちゃんを抱きかかえたまま、回し蹴りで迎え撃つ。


志乃ちゃんという脅し道具が無くなったこいつは俺からしたら虫けら以下でしかない。だるまからは見えない速さの回し蹴りが、顔面に直撃する。


「ガァッ!」


「えぐっ·····」

「あの人、あの時、本気出してなかったのか」


師匠とNo.23は開いた口を抑えるようにしてつぶやく。靴には汚い男の血がついてしまったが、もうどうでもいい。


早く家に帰りたい。志乃ちゃんがお姫様抱っこを止めさせようと動き回るが、抱きしめたまま離さない。


あたりは一層、暗くなっており星が綺麗に光っている。赤い血がついた俺たちに対比するように白く光る星。


諦めたのか、動かなくなった志乃ちゃんがつぶやくようにして話し始める。


「私·····」


♣♣

10万文字を目標にしていたので、そろそろおわりに入ります。







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