第53話

彼は提案があると、座り込んでしまった。このまま戦っても、ボロボロになっておしまいでけいすけの助けにはいけないだろうし。


目の前の相手を、どう痛ぶってやろうと考える。生意気な金髪の青年をひれ伏させてやる。


でもこの勝負、圧倒的に分が悪い。拳と拳なら勝率は私の方が上だろう。でも蹴りはあまり得意ではない。それに相手はけいすけと互角にやり合う手練。


けいすけが志乃ちゃんを救うまでの時間稼ぎくらいはしよう。でもここで死んだらもう志乃ちゃんとけいすけに会えないのか。なら尚更、負けられない。


私が覚悟を決めた時、あぐらをかいた膝に両手を置いて、小さくため息をする。そして青年は少し恥ずかしそうに頬をかきながら、耳を疑う発言をした。


「·····もし俺がお姉さんに勝ったら、俺と付き合ってくれませんか」


彼の言葉が放たれたあと、数秒間の沈黙が私たちに訪れる。その静寂は私の心からの声によって終わりを告げる。


「·····は?」


渾身のとぼけ顔をかましてやると、自分の言葉が聞こえていなかったのかと、もう一度恥ずかしい言葉を言う青年。


「いやだから、俺と付き合ってくれませんか?って言ったんです」

「うん、聞こえてはいるんだよ?私はその告白の意味を聞いてるんだよ」


座っていた青年はジャップしながら立ち上がると、私の目を見て真剣そうにして言う。


「僕も戦闘で恋に落ちるなんてやばいと思ってました。でもそんなこともあるんだなって、今は思います」


なにか言ってくださいよ、とクシャりと顔を歪める青年。この人は私に好きと言っていて·····。


·····私のことが好き?


「·····え、え?え!え!?」

「そんなに驚くことですか?どうせこんなに可愛いお姉さんのことだから沢山の男から告白されてるでしょう?」

「も、もちろんです!」


テンパって敬語になっちゃったしぃ!告白されるなんて初めてだしぃ、まず人から好きって言われたこともあんまりないしぃ·····。


「そうですよねぇ。お姉さんは美人ですから」

「あ、あぅ·····っ///」

「それに強いって、凄いですね。あぁどんどん好きになってきました」

「あぁあああ·····!」


私は両手で顔を覆う。絶対に顔が赤くなってる。そんな褒められたら、こうなるのも仕方ないしぃ·····。


「じゃあ、そろそろやりますか、もし僕が負けたら好きなようにしてください。でも勝ったらお嫁さんに·····」

「え!なんか要求あがってない?ねぇ!?」

「いざ尋常に·····」


そういうと青年は勢いよく地面を蹴る。そして私の懐に入り込む。動揺が隠しきれず、防御が出来ない。蹴りが頭に直撃する。


そう思った時だった。青年の蹴りが寸前のところで止まる。そして足を下ろすと、私に顔を近づけて言う。


「何?僕と結婚したいんですか?」

「ち、ちがっ!?」

「じゃあ真剣にやってください。そのうえで僕を好きになって欲しいんです。頼れる男と思って欲しいんです」


そういう青年。そして私に向かって囁く。


「大好きです」

「恥ずかしいでしょ!」


そう言ってビンタをかましてしまう。結構な勢いで叩いてしまったので、青年が宙を舞う。地面にぶっ倒れた青年が、叩かれた頬を擦りながら言う。


「強いですね·····」

「君が悪いんだからね!?」


申し訳ないなんて、敵に思ってしまった私は狂い始めている。


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