第52話

俺たちは動画を見た後、すぐに家に帰ってバイクに乗って、動画が撮影された場所にへと向かう。


師匠が心配した声で、腕を腰に回して言う。


「けいすけは冷静でなくちゃいけないよ」

「分かってます。志乃ちゃんがやられた分を返すだけです」

「私は最近、戦ってないからあんまり戦力にならないかも。正直、けいすけ一人でも出来ると思うけど、私がストッパーになるから」

「狂った時は止めてください」


分かった、と小さくつぶやく師匠。腰に回していた腕の強さが強くなる。大丈夫、とで言うように包み込む。


師匠がいて良かった。いなかったらとっくに我を忘れてしまっているところだった。施設の頃に戻ってしまう。ただ人を殺すことしかしていなかった頃に。


バイクが出せる最高速度を出して、拷問室についた。独特の匂いに、昔を思い出す。いい思い出なんてひとつもない。師匠もその可愛らしい顔を歪める。


「最悪な場所だね。志乃ちゃんを助けに行くよ」

「はい。簡単には行かないでしょうけど」


死ぬかもしれない場所に足を進めるのだが、志乃ちゃんを助けるためと思うと、重い足ではない。


俺たちは悲鳴をあげるように軋むドアを開ける。銃が打ち込まれると思ってドアに隠れるが銃声は聞こえない。


そこは誰もいなかった。てっきり待ち構えているものだと思っていたから、全員殺そうと思っていたが、そんなことをしなくても済むようだ。


「手厚い歓迎はないだね、逆に怖いというか·····」

「俺がいたら負けることは無いです」

「けいすけは人類最強だもんね。でも油断だけはしたらダメだから」


そんな冷たい声が金属製の部屋に響く。それと同時に奥から、革靴が地面と接触する甲高い音が規則正しく響く。


「こんばんわ、相模さんとお連れさん」


そう言って余裕な笑みを浮かべて歩いてきたのは、こんな血なまぐさい場所に不似合いな金髪の青年だった。


「ちなみに僕は結構やるんで、いつでもかかってきてください。二対一でも構いません」

「誰がお前の言葉を聞くか。どうせ油断させて一斉に叩く気だろ?」


俺がそう言うと、首を横に振る。そしてどこか悲しそうに笑う。


「相模さんに暴れられて、もし負けた時、組織が潰れちゃうんで腕のたつやつだけ残ったみたいな感じなので安心してください」

「お前はそんなペラペラと話していいのか?」

「どうせ、僕が死ぬか、相模さん達が死ぬかなんで。じゃあ遠慮なく」


そう言って金髪の髪を揺らしながら、地面を蹴る。その速さに俺は思わず後ずさる。金髪の青年の蹴りが俺の顔を掠める。


「舐めてもらったら困ります。これでも相模さんの想い人の相棒やらせてもらってたんで」


そう言って連続蹴りを繰り出す。当たるか当たらないかのギリギリで俺はかわす。志乃ちゃんの相棒なら強くて当然か。


俺が青年を引き付けている間に、師匠が後ろに回り込む。そして回し蹴りを叩き込もうとするのだが、もうひとつの足で上手くいなされる。


渾身の蹴りを止められた師匠がこぼすように感嘆の声を出す。


「青年くん、よくやるね」

「綺麗なお姉さんもいい蹴りでしたよ。もう少し遅れていたら、肋の骨が何本か折れるところでした」


正直、現役バリバリでやってるヤツらとは勘が違う。一度身を引いた俺と青年では死を感じる感性が負けている。


でも·····。


「蹴りが得意なら、俺も蹴りで戦ってやるよ」

「ありがとうございます。最強とやり合えるなんて、人生に一度あるか、なんでね?」


俺は手を封じるためにポケットに手を入れる。それを見て、青年も同じようにする。そして俺と青年は笑う。命をかけているからこその笑み。


「死んでくれ·····」


一斉に地面を蹴る。そしてどちらも右足を相手の顔面を目掛けて蹴りあげる。そして両者共にガードすることなく、頭で蹴りを受ける。


「痛ぇな」

「いい蹴りですね、相模さん」


汗のように、頭から血が漏れる。暖かい昔を思い出す鉄の香り。そして両者、もう一度、構えに入る。


「けいすけは先に行って。私がこいつとやる」


そう言って、俺の横に立つ師匠。俺が師匠の顔をのぞき込むと、ヘラッと笑ってみせる。それは心強い笑みだった。


「志乃ちゃんを助けてこないと、殺すから」

「分かった。絶対助けてきます」


師匠と青年の勝率は五分というところか。任すには危なすぎるのだが、本人がいいと言うならそれに甘えよう。


俺はこんなところで、時間を食っている暇はない。いち早く、志乃ちゃんを助けなければ。


「生きててくださいね、師匠」

「あぁ」


俺はそれだけ言うと、青年をおいて拷問室へと入っていった。


「かっこいいですね、お姉さん」

「可愛い弟子をもったものだよ。で、どうする?本気でやり合う?」


住谷が冷静に聞くと、青年は何故か少し恥ずかしそうに頬をかく。そして地面にぺたっと座り込んでしまった。


「·····僕に提案があるんですけど」


青年は落ち着いた声色で話し始めた。





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