第51話

太陽も出てきて、熱くなってきた。じんわりと汗が滲むくらいの暑さである。


「志乃ちゃんと付き合えたら何したいの、けいすけは」


さっき買ったサイダーを一口含んでから、さっぱりとした声で師匠は言う。付き合えたらっていうか、もう俺は結婚まで考えているのだが、何をしたいかって言われたら、


「まずは俺の事を好きって言って欲しいですかね?言ってもらったことないですし」

「え!?ないの?ってまぁ私もさっき初めて言ったところなんだけどね?」

「志乃ちゃんはクールだから、言ってくれないんですよ。まず、俺の事敵視してるでしょうし」


俺がそう言うと、師匠はため息をついて背中を思いっきり叩いた。そして人差し指をピンッとたてると、


「志乃ちゃんからじゃなくて、けいすけから攻めないとだめ。志乃ちゃんは奥手なんだからリードしてあげなきゃ」

「そうですよね。でもウザがられてるんで、嫌われるかなって」

「それは女の子の嫌の違いって言うものがあって、赤い顔しながらやめて、言うのはもっとって意味なんだよ?」

「難しすぎます。嫌われたら嫌ですし」


ため息まじりの声を出すと、師匠は横でシャドーボクシングの素振そぶりをした。俺が疑問符を浮かべた顔で眺めていると、師匠は少し顔を赤くしてやめてしまった。


「こほんっ。さっきのボクシングは恋愛は逃げじゃダメってことだよ。ぶつかってみたら?」


そう言って手をヒラヒラとさせている師匠。笑いながら歩いていると、目を前からフードを深く被った男が歩いてくる。


あまりにもこの場に不自然な男の登場に俺と師匠は目を合わせて、構える。その男が俺たちの前でピタリと歩みをやめると、低い声で話し始めた。


「そんな構えないでくださいな。俺は相模に渡したい物があるだけだから」


そう言って片手にスマートフォンを持って、もう片方の手は上げながら近寄ってくる。顔はこちらに見えるようにしているため、40代くらいの男ということが分かる。


「そんな怪しいやつから俺たちが何かを貰うと思っているのか?」


俺が余裕を持ってそう返事を返す。そういうと、ヘラヘラと不敵な笑みを浮かべる男。その笑みに俺と師匠は覚悟をする。


「·····お前の大好きな暗殺者の情報と言ったら?」

「なっ!?」


師匠は大きめに反応を表してしまう。そして小さい声ですまない、と俺に向かって呟く。男から発された言葉の瞬間に、この男を殺そうと思ったが、話だけは聞こうと思う。


「ちなみに俺の事を殺したら、あの女の命はないと思えよ?」

「·····あぁ、分かったから早くそれを渡せ」

「そんな焦るなよ。まぁ、俺はお前とこれ以上いたら脅しなんて関係なく殺されそうだから逃げるんだけどな」


そう言ってスマートフォンを地面におくと、男は逆方向に走り始める。跳ねるように走る男に俺と師匠は追いかけるが、前から準備していたバイクに股がって逃げて言ってしまう。


「·····逃げられたね、けいすけ」

「そうですね、でもスマートフォンを見てみないと·····」

「志乃ちゃんが関わってるみたいだしね」


そういうと師匠は地面に置かれたスマートフォンを拾い上げる。そして電源をつける。パスワードは設定されていなかった。


「何も無いけど」

「いや、多分、写真や動画。早く見ないと爆発するかもしれない、パスワードがかかってないってことはこれは跡形も残らないから大丈夫ってことですし」


俺がそう言うと、師匠は不自然に目立つフォルダを開いた。そこには一本の動画が入っていた。


「ここって·····」

「拷問室ですよね、政府の野郎の」


そこは見覚えのある場所だった。俺のことをしつこく追い回しているヤツらの本拠地みたいなところである。


「志乃ちゃん!?」


師匠が動画を再生すると手錠で両手を繋がれた志乃ちゃんが映る。間違えることの無い俺の好きな人の顔だった。


志乃ちゃんにカメラが寄っていくと、屈強な男が目の前にたつ。こいつは知っている。闇の世界でも、やり手と話題になっている殺し屋だ。


そんな奴が思いっきり、可愛らしい志乃ちゃんの顔面を殴った。女の顔を遠慮もなく、本気の一撃を。


その動画を見た時に、師匠は口を手で押えて押し黙り、俺は足の先から鳥肌がたった。そして脳が正常な判断を下す。


「皆殺しだ」


俺は単身、敵組織に乗り込むことを決めた。




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