第50話

椅子で1人、座らさせられた女はただただ虚無の時間を頭をはたらかせながら過ごす。


この部屋は密室なので、時刻は分からないのだが体感的には10時間はたっただろうか。外は多分、夜になっていることだろう。

コンビニのデザートでも食べていた頃かなぁ。


さっきの動画が相模の元に届いたのなら、あいつは迷わずに私を助けにくるだろう。


でもここには私と同じくらいか、いやそれ以上の……。


そんなことを思っていると、密閉されていたドアが奇妙な音を立てて開く。私は衝動的にその男をみて、顔を歪める。


やはりタイミングよく現れるのが、この組織のリーダー。そんな彼の能力は不気味である。


筋肉ダルマのような体をしているが、それは戦闘に使うために特化されたもので、余計な物はひとつもない。気持ち悪いあごひげはあいつのトレードマークである。


「お久しぶりですねぇ……No.18さん」

「クズ野郎……」

「無様な姿ですねぇー。あんなに威勢がよかった貴女が!」


そういって気持ち悪い笑みを浮かべるこいつの名前はNo.1。最初で最高の傑作と呼ばれた人間。人を殺すのに躊躇しない、イカれた男である。


こいつとは組織の時にライバルとして、罵りあっていたいわゆる犬猿の仲。どちらもお互いのことを嫌っていた。


だからこういうことになると、思っていたんだけど……。


静かに私の方に近づくと、指の骨の音を規則よく鳴らす。そして気持ち悪いくらい満面の笑みを浮かべて、こんなことを言う。


「我は貴女の顔が嫌いだ。一生笑われないようにしてあげよう」


肩を大きく振りかぶると、その巨体から繰り出される最大の威力で拳を私に突き立てた。もちろん、手を拘束されている私は防御することなんか出来ずに、無抵抗に殴られる。


「うあぁぁあぁああぁあっっ!?」


想像を絶する痛みが私を襲う。


その痛みに私は発狂する。


職業が暗殺者である私は、痛みになれていない。多分、顎の骨が折れた。殴られたあともズキズキと痛みが継続して襲う。


「かわいい悲鳴を上げて!?可愛い、それでこそライバルNo.18!痛いですか?痛いですよねぇ……」


私に顔を近づけて、興奮するNo.1。顔を火照らせて、折れている顎の骨を優しく触るが、的確に折れているところをいじるため、痛みが走る。


「まだまだ痛めつけてあげますからねぇ……」

「覚えとけ……絶対に殺してやるからな」

「そんな無様な姿で何を言うのかねぇ?」


そう言ってNo.1は鼻で笑った。手の拘束さえなかったら、殺してやるのに……。思いっきり、手を動かしてみるが、手首が締まるだけ取れる気はしない。


精一杯足掻いていると、何かを思いついたかのようにNo.1は恋に落ちたようなそんな表情を見せる。

そして、高揚した声で耳元で囁く。


「そうだぁ、貴女のことが好きだとかいう変なやつがいるんだってねぇ」

「……それがどうした?」

「貴女もどうせそいつのこと好きなんだろう?じゃあ!」


そう言って自分の爪を噛み切るNo.1。首を骨を不規則に鳴らす。狂ったように笑いながら、言葉を続ける。


「そいつが好きじゃなくなるくらい顔を変形させてやるよぉ!誰も傷ありの女なんて好きになんてならない」


高笑いを続けるNo.1。相模が顔が変わったくらいで私のことを嫌いになるわけない。それは分かってはいるけど、怖い。私のことを唯一好きなってくれた人が離れてしまうのが。


「やめろ……いや、やめてください」


無様に懇願することしか出来ない。プライドを捨ててまでも、私は相模と一緒に生きたい。色んなことをしたい。女の子がする普通を私も経験したい。


恋に落ちて、キスもして、それで……。


私が頼む姿に、腹を抱えて笑うNo.1。そして相変わらず狂った声で、


「貴女みたいなやつを幸せにさせてやるわけないだろうねぇ……。貴女みたいなやつは恋なんざ許されるわけないんだよぉ」

「あぁ……あ」


そう言ってもう一度拳を振り上げる。おわりを確信する。空白の時間がおこる。その時間に一人の声が響く。


「おい!No.1。何ここで油売ってんだ。お前には仕事がまだまだ溜まってんだぞ」

「ちっ!No.23……」


そういうと、後ろを向いて立ち去っていくNo.1。多分、もう一度悪さをしたらペナルティが下るのだろう。


No.23はこちらを向いて1度だけ頭を下げる。そんな彼に私は問いかける。


「なんで私を助けた?」

「僕は助けたつもりなんてありません。No.18が勝手に助かったと思っているだけです」


そう言って、そそくさと立ち去ろうとする彼の背中に痛みを我慢して感謝の言葉を叫ぶ。


「ありがとう!」

「まぁ幸せになってくださいよ」


それだけ言って密室のドアは閉められた。多分、No.1の仕事は相模を殺すこと。もう一度、相模に会えることを祈りながら、眠気に任せて目を閉じた。



















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