第49話
「志乃ちゃん出ておいで~、怖くないよ?」
俺は路地裏への道を探したりするが、やはりいない。いるわけなんてないのだが。彼女自身が帰ろうと思わなければもう一度会うことなどできないだろう。
そんな俺を見て師匠はバカにするようにして笑う。
「猫じゃないんだから。それに今の相模くんは怖いし。気長に待とうよ」
「そうですよね……」
師匠と一緒に歩いていても、志乃ちゃんがいるんじゃないかと探してしまう。それほど俺の中で大きなものになっていたんだと自覚する。
マク〇ナルドに向かう道の中で師匠は悲しそうな声で話し始める。
「……やっぱり志乃ちゃんのことが好き?」
「はい。世界一愛してます」
「そっか。じゃあ絶対、帰ってきてもらわないとね」
胸の前でギュッと拳を握る師匠。やっぱり師匠は頼りになる。でもどこかいつもと違う気がす
る。
師匠は急に立ち止まって、俺の顔を見上げる。上目遣いで、頬を赤く染めて一つ一つ大事するように声を出す。
さわやかに吹き抜ける風。それは彼女の背中を押すような。それをかき分けるようにして彼女の声が相模に届く。
「……私じゃだめ?」
「えっ!?」
師匠は大きく息を吸い込むと、心の底から叫ぶようにして愛を叫ぶ。何年分の感情だろうか、それをぶつける。
「私じゃ、けいすけの横にいることはできないかな?大好きなの!けいすけのことが」
「……ちょ、ちょっと待ってください」
うん、と小さく頷く師匠。これはどういうことだろうか?いつか、俺が告白した時はこっぴどく振った師匠が、今は俺に告白をしてきている。
そりゃ師匠と恋人になったら、俺の全てを受け入れてくれるだろうし、それに可愛いし、俺は師匠のことは好きだ。
俺が黙っていると、それの袖をクイッと掴んで言葉を続ける師匠。震える声を振り絞るように……。
「ずっと好きだったんだけど、恥ずかしくて何も言えなくて、志乃ちゃんが出てきて私のものじゃなくなっちゃうのが怖くて……」
「……うん」
「でもさ、同情で私と付き合って貰うのは嫌だからさ?これは一応……踏ん切りをつけるための告白というか」
師匠は遊ばせるように、いじいじとしていた指を下に下ろす。そして決意したかのようにニカッと笑って見せた。
俺の目をちゃんと見て、
「ほら、早く振ってよ。惨めになるじゃん?」
無理して笑っているのが分かるくらいに、目に涙を浮かべる師匠。彼女の涙を見たのはあの日以来だった。俺の心が大きく揺れる。
そんな師匠の涙につられて泣いてしまった。多分、俺の方が師匠よりも泣いていたと思う。
……でも俺は心に決めた人がもういるから。
「俺は志乃ちゃんのことが好きです。だから師匠とは付き合うことは出来ません」
俺がそう言うと、師匠は俺の肩をぽんと叩いた。師匠は涙で汚れた顔をこちらに向けると、歯を見せて笑った。
「流されてYESなんていったら殺してた。それでこそ、けいすけだよ。それが私の好きなけいすけだからさ。急にごめんね」
「……俺こそすみません」
「そんなしょげた顔しないでよ。どっちが振られたか分からないでしょ?ほら!」
そう言って、ポケットから取り出したハンカチで涙を拭いてくれた。そこからしゃがんで、ゆっくりと息が整うまで、流れる時を過ごした。
師匠は俺の涙をふいても自分の涙は拭かずに、失恋の証として手で擦り、目の下は赤くなっていた。
師匠はスクッと立ち上がると両手を空に突き上げて、言う。
「新しい男でも探すかぁ!」
切り替えたかのような言葉は自分の辛い心に言いきかせるような叫びだった。最後の涙を手で拭い終えると、笑顔よりもよく伝わる真剣な顔で伝える。
「けいすけより幸せになって見せるんだから」
「はい、ししょおおおぉ……」
さっき拭いて貰った涙がまた出てきてしまった。そんなの師匠のせいだ。そんなことを言われたら誰だって……。
さっきまでとは声のトーンを下げて、いつもの師匠に戻って、話す。親しみのある声。ここらが落ち着いていく小さい頃から聞いてきたものだった。
「こんなことになっちゃったけどさ、一生友達だからね、サヨナラじゃないよ?」
早く行くよ、と急かす師匠の背中はいつだって大きく見えて今日はいつにもまして大きく見えた。
師匠ありがとう……。あなたのおかげで俺も前に進む決意をしました。彼女の背中に届くように思うと、何かを感じ取ったのか振り向いて笑って見せてくれた。
♣♣
完結したらifストーリーでもかこうかな?
感想が多かったら書きますね笑
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