第45話
いつものように朝五時には目が覚める。横には、綺麗なお姉さんといつかの誰かに殺せと命令された男。
「……今なら殺せる」
間抜けな顔してねている相模と言う男を殺すことは出来る。でもなんで私は殺そうとしないのだろうか?
前までの私ならターゲットに同情したりなんかしなかったはず……。遠慮なんかせずにサクッと殺したはずだったのに。
なのに……私は昨日の夜に、この男に初めてのキスをしてしまった。あの時の雰囲気といえ、殺しの対象に恋をしてしまったなんて、過去の私が聞くとなんて言うだろう。
彼は感情なんてずっと前になくなってしまったと思っていた私にまた、思い出させた。
面白い、楽しい、そして……。
「お、おかしい……。絶対に私が間違っている。そ、そうだ。逃げよう。ここにいては相模に好き勝手されるだけだ」
今は手錠もない。幸い、相模は起きそうにない。多分、私のことを信用しているのだろう。
そんなふうに思うと、心が傷ついたがこの世界は元からこんなものだっただろう?と自分に案じた。
さっきは間抜けに見えたのにかっこいい顔で寝ているように、見えてしまった相模の顔を脳から消すようにして頭を振った。
相模のことなんてなんとも思っていない。ただ『間違えてしまっただけ』なんだ。
元々、ここに荷物なんてなかったから、我が身一つで飛び出すことが出来た。マンションのエレベーターを一階に設定すると、そこからは簡単に脱出できた。
「やっと自由だ!」
どこに行くかなんて決めていないが、どこかでバイトでもして普通の生活とまでは行かないけど、良い人と結婚して子供も授かって……。
こんな私を愛してくれる人はいるのだろうか?小さい頃から愛と言うものを貰ってこなかった志乃は漠然とした不安に襲われる。
「……相模は私のことを可愛いって言ってくれた」
そんなことを呟いてしまった私に腹が立って、地団駄を踏んでしまう。あいつのことは忘れないといけない。初めて私のことを好きになってくれた人だけど、愛してはいけない人だから。
それに私なんかより住谷さんの方がよっぽどお似合いだし。なんか失恋した気分だな。スタートラインにもたってないのに。
地面とにらめっこしながら、これからどうするのかを考えていると突如、目の前が真っ暗になる。
やばい、目隠しだ!そう思った時には口元はハンカチで抑えられる。
「ううっ!」
何か薬品を塗られていた為にそれを大きく吸い込んだ志乃は、その場に崩れるように座り込む。
そんな志乃を抱えるようにして、車に連れ込むサングラスをかけた男。
「悪いな、でもあいつを殺すためなんだよ。手を貸してくれよ、ねぇーちゃん」
そう言って汚い笑い声をあげる男。そんなことが起きているとも知らない相模は規則正しい寝息を立てていた。
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