第44話

結局俺たちは三人でダブルベットを使うことになった。それに二人の意向で俺が真ん中で寝ることになった。


もちろん狭いので体が当たってしまうのは仕方ない事として、横から感じる体温に眠れそうにない。


それになのに志乃ちゃんは俺の手を抱き枕代わりにして、規則よく寝息を立てている。手に頬をすりすりと擦り付ける度に、俺の心臓は跳ね上がる。


「何?志乃ちゃんにお胸当てられてドキドキして寝られないのかな?相模くんは」


そう言ってこちらを向いてくすくすと笑っている師匠に助けてという視線を送るのだが、笑うばかりで何もしてくれない。


「ウブだね。そりゃ思春期真っ只中の時に、私とかいう男っぽい女しかいなかったからまともに恋愛できてないしね」

「普通に可愛かったです。あの白い部屋にいる時からずっと」


俺がそういうと、師匠は頬を恥ずかしそうにかくと照れくさそうに笑うと、


「そんな褒めても何も出ないよっ///」

「あの時、生きていようと思ったのは師匠のおかげだし……」

「私もね、多分相模くんがいなかったら死んでたと思うからさ。……ちょっとこっちに来て」


そう言って俺に手招きをする師匠。そして俺がよっていくと、俺の頭に手をおいて、くしゃくしゃと撫でた。


手の温もりが感じられる。心が落ち着いていく。前を向くと、ニコニコと笑った師匠がいた。


「寝られないんでしょ?寝るまでこうしてあげるからあげるから」

「俺はもう子供じゃないんですよ?いい大人で、そんなことをされたら勘違いしますって」


俺がそういうと、どこか小悪魔っぽい笑みを浮かべると撫でる手をやめて、色っぽい猫撫で声でこんなことを言う。


「勘違いしてもいいかもよ?」

「……はへぇ!?」

「嘘。志乃ちゃんに怒られちゃうからね。明日、どこか遊びに行こ」

「……はい」


俺が返事をすると、また頭を撫で始めて子守唄を歌い始めた。


「子守唄なんて知っていたんですか?」

「んー?覚えたかな?暇すぎて子守唄でも覚えようってなっちゃってさ」

「いいお母さんになりそうですね」

「……まずは相手かなぁ?私のことをよく知っていて優しい人どこかに居ないかな?」


そんなふうにつぶやく師匠。ここで俺が「俺で良くないですか?」なんて言えたらどうなるのだろうか?師匠と付き合ったりできるのだろうか?


何を言うか決めてないけど、とにかく何かを求めるような表情をしている師匠に何かを伝えたかったんだと思う。


「師匠……俺、っ痛ぁ!」


俺が師匠に向き直った時に、志乃ちゃんの裏拳が俺の顔面にヒットする。それを見た師匠は大きな声は出せないので、枕で口を抑えるようにして笑った。


「志乃ちゃんもやるね。最強の男の顔面にパンチを入れるなんて」

「してやられました……」


俺たちはそのままダラダラと話しながら、お互いにうっすらと意識が遠のいていきそのまま眠りについた。


「……けいすけは私にはもったいないなくらい良い人だなぁ」


そう言って独り言を小さく漏らす住谷。最後に一度、相模の頭を撫でると手を取った。


「好きだよ、けいすけ……」


そんなふうに呟いた住谷は相模の顔を見ながら眠りに落ちたという。

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