第41話

俺と師匠は辛かった時の昔話を笑いながら話して帰った。


やはり師匠とは息が合う。あの時は届かなかった人だったけど今なら届くかもしれない。そんな誘惑が俺を襲う。


昔、師匠のことが好きだったのは確かだが、今はどうだろうか。分からない。これからわかっていくしかないんだと思う。


そんなことを思いながら、暗闇の中の街頭だけを頼りに家まで帰ってきた。


暗い道では命が狙われてもおかしくないのだが、俺と師匠二人組で負けることなんてないので安心して帰ることが出来た。


「ただいま、志乃ちゃん」

「あ、おかえり、相模」


リビングには冷蔵庫に入ってあったドーナツを、1人で食べる志乃ちゃんがいた。目の下が少し赤くなっている気がする。


「暗殺者ちゃん、相模くんと話した後でいいからさ、私ともう一度、話してくれないかな?」

「わ、分かりました」

「あのし、志乃ちゃんが怯えてる!?師匠は志乃ちゃんに何を……」

「特になにもしてないよぉ!とりあえず、お風呂借りるね」


調子よくスキップをしながらお風呂へと向かう師匠を尻目に俺は頬をかきながら、志乃ちゃんの方へと向かった。


俺はひとつ咳払いをしてからドーナツをくわえている志乃ちゃんに話し始めた。


「さっきはいきなり飛び出してごめん。ちゃんと話も聞かないで」


俺がそう言うとドーナツを一口で食べると、俺の目を見て、心の籠った声で返答する。


「あの!あれだから。嫌いって言っちゃったけど嫌いじゃないから。でも全然、本気の恋愛対象の好きとかじゃないから」


そう言ってツンデレムーブをかます志乃ちゃんに可愛さを感じる。


「それは分かってるって」

「で、でも好きになるかもしれないから」

「……はへ?」

「せいぜい私をメロメロにさせて。そしてこれはさ、今日のお詫びだから」


そう言って、志乃ちゃんは俺の頬にキスをした。そう言ってクスリと笑うとまたドーナツを食べ始めてしまった。


「相模もひとついる?」


何もなかったかのように聞いてくる志乃ちゃんの耳は少し赤くなっていたようで、暗殺者のポーカーフェイスをもってしても、恥ずかしさは隠しきれなかったようだ。


「じゃあその食べかけのドーナツで」

「それは……間接「キスだね!」


俺が満面の笑みで、親指を立てると俺の事をジト目で見てから、いつもの冷えきった声で、


「……そのことをこれ以上いじるなら殺してやるから」

「やっぱ可愛いなぁ、志乃ちゃんは!」


俺が抱きつこうとすると、志乃ちゃんはすくっと立ち上がって舌をべー、と出してどこかに行ってしまった。


志乃ちゃんがリビングからいなくなったことを確認すると大きくため息をついてから、呟くように本音を言った。


「はぁ……夜も眠れないじゃんか」


同刻、志乃ちゃんのほうでは……。地面にしゃがみこんでしまう可愛らしい女の子の姿が確認できた。


「やりすぎちゃったぁ……っ///」


赤くなる顔を両手で覆うのだった。








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