第40話
「相模くんはさぁ!?」
完全に酔っ払ってしまった師匠から肩を掴まれる。胸もとがちらりと見れる。見てはいけないと思って、目をそらす。
「師匠、酔っ払ってますよね?ほら、帰りますよ」
そう言って俺が席を立とうとすると、さっきまでと違った弱々しい声で俺のことを呼び止める声が聞こえる。
「そんなに冷たくしないでいいじゃん、けいすけ……」
久しぶりに呼ばれた名前に俺は勢いよく振り返る。けいすけなんて呼ばれたのはいつ以来か。
師匠は外に出てからというもの、施設の人から貰った相模という苗字で呼び、距離をとった。
俺は物心ついた時から、師匠のことが好きだった。師匠はいつでもかっこよく、凛々しい人だった。
そんな師匠が顔を赤く染めて、こちらを上目遣いで見る。そして胸の辺りでこぶしを作ると真剣そうに俺の名前を呼ぶ。
「相模くん……私」
察しのいい俺はわかる。これは告白……!?そんなことがあるのか。ずっと好きだった師匠からなんて!?俺の心が跳ねる。
期待を胸に耳を傾ける。が、師匠は大きくため息をつくと笑いながらこちらを見る。
「……何、真剣な顔してんのさ。財布忘れたからココ奢って欲しいってだけ」
「な、なんだ……ってマジすか。完全に奢られる気でいたのに……」
「稼いでるんだからいいじゃん?散々奢ってきたんだから、ここくらいはさぁ?」
おれは残念だという気持ちと共にほんのりと安堵感を胸にしていた。もし、告白されていたら志乃ちゃんとどうするか、なんて決められないから。
でもおれは志乃ちゃんのことがたまらなく好きだし。でも、志乃ちゃんは俺の事が嫌いだしなぁ。
師匠は頭をかきながら、俺から目を逸らしながら言葉を続ける。
「あと、志乃ちゃんだったっけ?あの子、自分が言ったこと、後悔していたみたいだよ。一度話聞いてみてあげたら?」
「ほ、本当ですか!?一回話してみます。やっぱ頼りになる!師匠は!」
「これからも頼りたまえ!」
そう言って師匠は胸をポンッと叩いた。
有益な情報を得たことで俺の財布の紐は緩くなる。そのことをその場を全て払い終えた後に気づいた俺は馬鹿である。
「私もバカだなぁ……」
そんな呟きは相模の耳に届くことは無かったが、どことなく清々しい顔になった住谷。帰ったらちゃんと志乃ちゃんと話そうと決めたのだった。
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