第39話
作者より/
ちょっと重いかもですが、最後はハッピーになるので見てくれると嬉しいです。
●
これは私、住谷が相模に恋におちるまでの話だが。
私は気づけば変な施設にいた。物心が着いた時にはだ。ということは幼い頃に親から捨てられていることになる。
そのことをいとも簡単に受け入れてしまっている私は多分おかしいのだろうと自覚する。
私に接してくる大人たちは私のことを物のようにしか思っていない。
狭い部屋の中に飛び込められて、武道の訓練や心理学。徹底的にスパイという職業になれるように毎日特訓されていた。
そんなしょうもない人生を送っていた多分、12歳くらいだったか。狭い白い部屋の中に1人の少年が連れ込まれてきた。
「こいつを見といてやれ、スミヤ」
「……」
「返事をしろ!殺すぞ」
「はい、分かりました」
そんな乱暴な仮面を被った大人に連れてこられたのは、私と同じ死んだ目した少年だった。私よりも小さい。弱々しいやつという印象だった。
「お前、名前はなんて言う?」
「……」
少年は私の目をのぞくように見る。久しぶりに私とほとんど同じ歳の人を見た私は彼に興味を待った。
「名前はないのかぁ……。じゃあ、けいすけ!今日から君はけいすけね。私のことは師匠と呼びなさい」
この時の私は自分の強さに自信を持っていた。目の前にいる、ひ弱な少年よりは強いと思っていたから。
「へ……」
「私が一人前の男にしてあげるから。まずは腕立て伏せからね……」
「はへ?」
♣♣
私たちは寝る時も、稽古をする時も、常に一緒にいた。けいすけも心を開いてくれて、私には話しかけてくれるようになった。
大きくなるにつれて訓練も厳しくなり、体罰も酷くなった。私の体には、常にアザがあった。
でも私はまだマシな方でけいすけの体はどこがいつも骨が折れていた。顔も腫れ上がりそれでもこちらを向いて笑う。
でもその笑顔も時には酷く歪んで、
「また、やられたの?」
「師匠……痛い。もう死にたいよ」
けいすけは何かがある事に死にたい、と言っていた。それでも日頃の訓練のおかげで前より頼もしくなった気がする。
でも、このままではいつか……
私は何か希望をけいすけに渡そうとした。私も常にこれに縋ってきたというものを。
「生きて、ここから出て普通の幸せを掴んでさ。そのために今日も生きよう。今日だけ生きよう。それが続けていけたらさ、毎日生きるってことになるからね?」
「……うん」
「死にたいって思っても今日だけ頑張ろうと思おうよ」
「分かった、師匠!」
けいすけはこちらに向かってニコッと笑いかけてくれた。今思えば、彼のその笑顔に私も救われていたんだと思う。
♣♣
多分15歳くらいの事だったと思う。けいすけのために私だけは折れちゃダメだと思って、どんな罵声を浴びさせられても、耐えた。
そんな中で私は大怪我を負った。右腕には尋常ではない痛みが襲っている。多分骨が折れているのだろう。
「師匠、大丈夫?痛そうだよ、無理しないでよ」
「気にしなくていいから、私は大丈夫だから」
「本当に?」
強がっている私に必要以上に心配してくるけいすけに腹が立った。絶対に当たってはいけない人に、私は当たったんだ。自分の苛立ちをぶつけた。
「だから大丈夫だって!うるさいなぁ!私のことはほっといて、ウザイから」
私は叫んだ後に自分が言ったことの間違えに気づいた。でも私のプライドが邪魔をして、ごめんの一言がいえなかった。
「……師匠、分かった」
それだけ、とても悲しそうな声で言うと私の元から去っていった。けいすけは多分、泣いていたんだと思う。
この時、私は自分の心の唯一の支えだった人を無くした。けいすけは私に話しかけることはなくなったし、私もけいすけに話しかけることも無くなった。
そこからの私は訓練にも力が入らないようになって、もっと怪我が増えた。
けいすけという支えをなくした、私は『いつ死のうか?』なんかを考えていた。いつかけいすけに言ったことの、真逆のことを常に思っていた。
けいすけが私よりも遅くに帰ってくる。私よりも酷い傷跡を残して。いつも私の横で鈍い音ばかり聞こえてくるから、私よりももっと……。
私があんなことを言ったから、あんなにけいすけは自分を追い込んで……。私のせいだ……。明日死のう。私は決めた。
ひ弱なけいすけは1人で生きていけるだろうか?それだけが私の心残りだった。
♣♣
私が死のうと決めた時の日、いつもより体罰が厳しかった。
「おい!早く立ち上がれ、スミヤ!もっと殴られたいのか!?」
私が力を振り絞って立ち上がろうとしているのに上から殴りつける、司令官。視界がぼやける。もう意識を手放してしまう。もうこのまま死のうと思ったその時だった。
「師匠をこれ以上、いじめるのはやめろ!」
目の前に現れたのは私がいつか見たけいすけと違って男らしくなった、成長したけいすけだった。
「おい、今お前がしていることは分かっているのか!?訓練を中断しているんだぞ?」
「だからどうした!俺は師匠がこれ以上傷が増えるのを見てられない!」
そう言って司令官をぶん殴るけいすけ。
司令官はなすすべもなく倒れる。司令官は多分、実力で言えばほとんど最強に近かった人だ。
その人を一撃でのした。このことが物語るのは最強の誕生。と同時に罪を犯したけいすけへの処刑の確定である。
「けいすけ!?お前がした事がわかっているのか?お前は殺されるかもしれないんだ」
私は叫ぶ。痛いなんてものは飛んでいっていた。こちらに振り向いていつもと同じように笑うけいすけ。私が支えられてきた笑顔。
「師匠を守れたならそれで充分」
「死んだら元も子もない!2人で普通の生活をするっていう夢はどうなるの!」
けいすけはどこまでたっても冷静な顔で呟く。
「それはもう叶いそうにないや。師匠だけでも幸せな生活を送ってよ。でも、心残りがあるとしたら、師匠が幸せになった姿を見れないことぐらいかな?なんて……」
そんなふうにして、笑うけいすけ。私は胸の中から沸き返るような感情が襲う。初めての感情。この時に私はけいすけに恋に落ちた。
「あーあ、あれだけの大群はさすがに手に負えないや」
目の前から銃を装備した大群が歩いてくる。私たち2人では到底太刀打ちできないだろう。ここが私たちの死に場所だ。そう思った時。
「罪を犯したのは俺だ!後ろの女の子は違う。抵抗はしない。俺だけを連れていけ」
それだけを言うと両手をあげて前に進んでいくけいすけ。今すぐに追いかけたかったが体は動かない。
「待って!私も連れてって!」
「バイバイ、師匠。」
振り返らずにそういうと、けいすけは捕らえられて捕まえられてしまった。声が枯れるまで叫んだあと、私は意識がなくなった。
♣♣
そこからどれくらいだっただろうか、怪我を治すための休養の時間なんて与えられていた。
こんなことは初めてだった。その理由を知るのはもっと後になる。私はベッドでけいすけのことを思って泣いた。
あんなひ弱な心の弱い少年が私のために命を張ってくれたのだ。それほどのことを私は返していない。何もしてあげられなかったのだ。
そんなことを思って、私は常に枕を濡らした。そんな時だった。
「スミヤ、どうしてもお前に会いたいという奴がいる」
「……」
返事をする気も出なかった。あの時から私は死んだような生活を送っていたから、仮面の男も返事をしないのを良しとしていた。
「通すぞ」
それだけ言うと病室のドアを開けた。そこには体全部に包帯を巻いた、顔の形を腫らして変えたけいすけがたっていた。
「師匠……会いに来たよ」
私は目を疑った。幻覚を見ているのかそう思った。そして頬をつねるが、もちろん痛い。
「本当にけいすけなの?本当に……生きてたの!?」
「今日だけ生きよう。そう教えてくれたのは師匠だよ」
「……バカけいすけーーぇぇえ!」
私はベッドを飛び出すと本能のままにけいすけに抱きついた。ひ弱とはかけ離れたしっかりとした体に涙が出る。
「師匠こそ、元気で何よりだよ。それより痛い」
「……ごめん。ごめん!あの時、酷いこと言ってごめん。ごめんなさいぃぃ!けいすけにあたって」
「いいよ。師匠のおかげでここまで頑張れたし、一緒にここを出よう」
「うん……うん!」
私は涙が止まらなかった。初めて私は嬉し泣きというものを経験したのだった。
♣♣
過去編です。まぁいつか相模圭介の方の過去編もいつか描きますわ。
長文を書いたもので感想を貰えると嬉しいです
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