第38話
思わず俺は部屋を飛び出してしまった。いち早くここから離れたかった。今は志乃ちゃんの顔を冷静に見れそうになかったから。
玄関のドアを開けて、脳内反省会を開く。何をこんなに焦ってるんだ?最強と呼ばれたこの俺がだぞ……?
ただ女の子に、はっきりと好きじゃないって言われただけで。こんなにも心が重いのだろう。
出ていく時、上手く笑えていただろうか。それだけが心配である。今思ってみると、仕方ないことなのだろう。
だって志乃ちゃんは、俺を殺しに来たんであって恋愛対象に入るわけない。はっきりと分かっていることなのに。
「待ちなよ、相模くん」
後ろから師匠の声がかかる。もしかして志乃ちゃんも追いかけてくれたのかと思って、振り向くがいない。
「そんなに落ち込んだ顔をされると、私も悲しいね……。志乃ちゃんに追いかけて来て欲しかったのかな?」
「……すみません。師匠に嫌な思いさせて」
俺が謝ると俺の背中をポンっと叩くと、ニカッと笑った。小さい頃から見ていた師匠の笑顔。
小さい時は下から眺めていたのが、今では見下ろすようになった。俺がミスした時もこうやって励ましてくれたな。
「いいって。相模くんが私に迷惑をかけるのはこれが初めてじゃないんだから。どうだい?私とお酒でも飲みに行こうか?」
「奢りっすか?」
「おぉ……ケチ臭いな。仕方ない、私が先輩だからな、うん……うん」
何かを言い聞かすかのように、師匠は頷く。たぶん自分の財布と相談した結果だろう。別にお金に困っていないので、先輩が酔った後に俺が払おう。
♣♣
俺たちは仕事終わりにいつも行っていた、居酒屋へと向かった。2人でいつも飲んでいた場所だ。
俺が殺される立場になるまでは。俺たちは生ビールを片手に、夜の宴が始まった。
「相模くんとこうして飲むのも、久しぶりだね」
「あの時はいつも師匠の愚痴を聞かされて大変でしたよ」
「だってそれは相模くんが聞き上手だから、話してしまうんだろ、仕方ないことだぁ!」
「まぁ、俺も相談に乗ってもらってましたし、どっちもどっちですけど」
俺がそう言うと、クシャりと笑う師匠。その後に師匠は少し聞づらそうに、小さい声で呟くように話し始める。
「相模くんはあれかな……志乃ちゃんのことが好きなのかな?」
「……まぁ、はい。どうせ振り向いて貰えないでしょうけど」
「そ、そうだよね。まぁ、仕方ないなぁ」
「それがどうかしたんですか?」
「べ、別になんにもないよ」
そう言ってグイッとビールを飲み干す。そんなに飲んだら酔っ払うんじゃないか、そう思った時にはもう遅かった。
「相模くんはさぁ!?」
あぁ、スイッチ入っちゃった……。
♣♣
新キャラの過去についても書こうと思います。
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