第36話
俺たちは師匠を部屋にあげると、ソファに座らせた。師匠は辺りをニヤニヤとしながら見まわたしている。
志乃ちゃんは落ち着かないのか、今は手錠はないが、いつもの柱にもたれかかるようにして座っている
「師匠、コーヒー入れました」
「私はオレンジジュースがいいんだけど?」
「じゃあ、俺が貰いますね」
そう言って俺がコーヒーを取り上げようとすると、俺の手をパチンと弾いてこちらを見る。
「飲まないとは言ってない。ただ大人にコーヒーなんて大人になったなって思っただけだよ」
「もう、子供じゃないんですから、俺も」
そんな会話をしてながら、師匠はコーヒーを一口飲むと1つため息をついた。そしてソファに深く腰を下ろす。
「で、本題に入ろうか、相模くん」
「まぁ、そうですよね。志乃ちゃん、こっちにきて」
「……分かった」
俺の呼び掛けに応じた志乃ちゃんが重い足取りで向かってくる。俺の横にちょこん、と腰掛けると辺りをキョロキョロしながら落ち着かない様子である。
「志乃……と言ったかな?単刀直入に聞くと君は何者なのかな?」
「私は……相模を殺しにきた暗殺者です」
「そうかい、分かった」
そういうと、師匠は胸元に隠し持っていたナイフを抜く。瞬間的な速さは俺が教わっていた時のそのまま。
おれはそれを視覚的に捉えただけで体が反応しない。早すぎる、……!
「志乃ちゃんっ!」
俺が叫んだ時には、事は終わっていた。志乃ちゃんはしっかりと師匠の腕を握って首元スレスレのところで止めていた。
「暗殺者って言うのは本当みたいだ」
「……本当に殺そうとしてましたよね」
「まぁ、貴方を試すためだよ。もう手出しはしないさ」
そう言って師匠はナイフを地面に転がした。それを見た志乃ちゃんは、握っている腕を解く。
「次にこんなことをしたら、いくら師匠でも殺す」
「だからもうしないって。そんな怒らないでよ、軽いスキンシップさ」
そう言って笑って見せる師匠。そしてコーヒーを飲み干す。俺におかわりを要求すると自己紹介をするよ、と師匠は俺に笑って見せた。
重い腰を上げて、おかわりを入れに行くと志乃ちゃんは「私もちょうだい」と、珍しく俺のコーヒーを欲しがった。
おれは嬉しい気分で跳ねながら向かう。
♣♣
赤い髪の師匠と呼ばれている女が優しい笑みを浮かべながら話し始める。
「私の名前は
「私は志乃。普通の暗殺者です。ここに来るまでは日本一って呼ばれてたけど、呆気なく相模に負けました」
「相模くんはちょっと化け物に近いからね……あれは。それにしても相模くん、かっこいいでしょ?私の自慢なんだから」
住谷が志乃にぐっと顔をちかづける。少し照れた顔をした、志乃ちゃんは頬をかきながら否定の言葉を吐く。
「そうですかね?……そんなことはないと思います、変態ですし」
志乃は指をいじいじとさせながら、呟く。相対して逆にテンションが上がっている住谷は。
「そ、そうなの!?相模くん、そんな一面もあったんだ。私たちの前ではそんなところ見せないから見てみたいかも」
「そんないいものじゃないです」
志乃がキッパリと否定すると、住谷は爆笑した。それから真面目な顔になると志乃にだけ聴こえるような声で呟く。
「じゃあ、私。相模くん狙っちゃっていいかな?」
「なぁっ……!」
志乃は驚くほど動揺した。こんなことが繰り広げられているとも知らない相模は、呑気にコーヒーを入れている。
♣♣
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