第34話

俺たちはプリクラで撮られた写真を見て絶句する。


「俺、可愛くなりすぎてないか?」

「萌えだよ……これは」


俺がとても可愛くなりすぎていたのだ。こんな顔で産まれてたら男を選び放題だっただろう、と思った。


志乃ちゃんは普段の方が可愛い気もするが、プリクラ状態の志乃ちゃんも可愛い。


「……相模に負けてるの悔しい」

「え、俺をライバル視してるの?俺は男だから関係ないって。それに俺は志乃ちゃんの顔、大好きだけど?」

「所詮、私は相模ウケがいいだけの女ですよ~」


少し拗ねたように口を結ぶ志乃ちゃん。そんなことを言いながら俺の顔にどんどんと落書きを施していくのを、やめていただけますか?


「よし」

「全然、よしじゃないけど!?もう俺顔見えないじゃん」

「相模はこれくらいがちょうどいいの」


そう言って笑う志乃ちゃん。しかし俺は知っている。落書きしていないただのツーショットを大事そうに印刷していることを。


そして落書きがされまくっている写真を俺に渡して、


「いい思い出になった。写真、大事にするから」

「俺も大事にするよ、だって志乃ちゃんの初めての写真だし。キス待ち顔も印刷しよっかな」


俺がそう言うと、俺の胸をポカポカと叩くと、少し涙目になった志乃ちゃんが上目遣いで俺の方をじろり、と見る。


「あれは消してって言ったでしょ?」

「だって、あんなに可愛い志乃ちゃんを消すなんてこと出来ない。俺のフォルダの中で一生愛でてあげたいし」


俺がそう言ってスマホを大事そうに抱えると、志乃ちゃんは俺を叩くのをやめて、少しため息をついてクシャりと笑う。


「今回だけだからね」

「神……」


俺が志乃ちゃんにお祈りをしていると、呆れたように歩き出してしまった。後ろから手を繋ごうと手を伸ばすと握り返してくれた。


そのままゲームセンターを回ることにした俺たちはUFOキャッチャーの前で立ち止まる。


「か、可愛い」


志乃ちゃんは景品として飾られているサメのぬいぐるみ〘 フォゲーくん〙に夢中になっていた。壁に張り付くように見ている志乃ちゃん。


愛らしいそのルックスは数々の女性を底なしのフォゲーくん沼に落としていったのだろう。


「欲しいのか?」

「そ、そんなことない。私がこんな可愛いものを好きなわけない。こんなフォゲーくんなんて……」


フォゲーくんから目を逸らそうと努力をするが、チラチラとみてしまう志乃ちゃんは好きな子を、無意識におってしまう男子中学生のようだった。


「じゃあ俺が欲しいから取ろっかなぁ」

「えぇ!?相模もフォゲーくんが好きなの」

「ま、まぁ……」


こういうのはやったことがないが、多分下手くそなんだろうな。こういうのは向いてないんだ。でもお願いだから、彼女のために取らせてください。神様。


運なんてあまり信じないが、これに関しては本当に運ゲー。


しかし対策をしないなんて言ってない。しっかりとアームをサメの尾びれに滑り込まして、引っ掛ける。そしてサメが持ち上がる。


「……案外、簡単に取れたな」

「相模、意外とやるじゃん」


こんなことで少し認められた。ごめんな、フォゲーくん。お前のことを勘違いしていたみたいだ。志乃ちゃんの愛を受け止める、クソ魚とか思っててごめん。


「はい、どーぞ」

「え、これは相模が取ったフォゲーくんでしょ?」


そう言って、フォゲーくんを押し返す志乃ちゃん。でも顔は本当に欲しそうな顔をして遠慮している。日本人の悪いくせである。


「志乃ちゃんに貰ってほしいフォゲー」


俺は気持ち悪い裏声を使ってサメに話させる。そんな仕草を見た志乃ちゃんは腹を抱えて笑ってから、フォゲーくんを手に取ってぎゅっと抱きしめた。


「大事にする。ありがとう、相模」

「おう」


サメとクール系美少女ってやばい組み合わせ。

可愛すぎる……。尊死した俺だった。


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