第32話

俺が金髪のお姉さんの誘いを断ろうと思っていた時、少し怖い顔をした志乃ちゃんが現れた。


「私の彼氏だから。手、出さないで?」


そんな風に言って俺と金髪のお姉さんの間に入る志乃ちゃん。そしてお姉さんをキリッと睨みつける。

まぁ、俺と出会った頃に向けてきた目線とは全然違うだろうけど。


お姉さんはびっくりしているが、それよりも多分、志乃ちゃんの可愛さに驚いているのだろう。


「やっぱりこんなに可愛い彼女さんがいたんだぁ。ま、そうだよね。じゃ、おばさんは退散するわ」


少し悔しそうな顔をして、苦笑いをうかべながらお姉さんは早歩きで、その場を後にする。俺は志乃ちゃんの方を見るとパッと目を逸らされる。


そして、俺の手を取ると歩き出す。


「ちょ、ちょっと?志乃ちゃん?」


俺は志乃ちゃんに連れて行かれるがままに、足を動かす。志乃ちゃんはゲームセンターの前で止まると、腰の辺りに小さな拳を作ってこんなことを言う。



「相模は自分のかっこよさに気づくべき。あんな人達からしたら標的にされるから」

「そんなことない。俺は普通だって。志乃ちゃんの方が可愛いから、俺の普通が目立ってるだけだって」


俺がそう言うと、志乃ちゃんは頬をプクっと膨らませて、腕を組んで怒っていることをアピールする。


でもその後に表情をコロッと変えると、俺の袖をクイッと自分の方に引っ張って、俺の耳元で小さくつぶやく。


「他の女の子にデレデレしちゃ、嫌」

「はぁあ!るる?」


急に耳元で呟かれた事に、動揺にして変な声を上げてしまう。そして志乃ちゃんはこっちを見て、くすくすと笑っている。


「お可愛いこと」

「え、いつの間に恋愛頭脳戦が……ってそんなデレデレなんてしてないけどな」

「嘘。あのおっぱいお姉さんにデレデレだった。私が止めなかったら、そういうことするところだった。」


金髪のお姉さんは胸も大きかったっけ?興味もなかったから見てなかったけど、それは損したなぁ。見ておけばよかった。


「だから俺の初めては志乃ちゃんに貰ってもらうって決めてるって」

「そんなこと言って……じゃあ私のことが好きって証明できるんですか?」


そんなメンヘラ彼女のようなことを言い出す志乃ちゃん。そんな志乃ちゃんも好き。何をしたら信じてもらえるだろうか?


「え、え!?」


俺は自分のおでこと志乃ちゃんのおでこをくっつけた。すぐにでもキスができそうな距離。志乃ちゃんは、顔が真っ赤になって俺を突き放す。


「わ、わかったから。もう……」


志乃ちゃんはゲームセンターの前で大きくため息をはいてから、黙って右手を俺の方に出してきた。


「繋ぐんでしょ?」


そう言って出された右手に俺の左手を添える。それだけで今日という一日が、志乃ちゃん1色に染まる。

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