第30話
まんまと俺は店員に乗せられて購入してしまった。
「相模は疲れが溜まってるの?電動マッサージ器とか買ったりして」
「んー、溜まっているんだが疲れでは無いんだけど。まぁ使い方としてはちょっと違うかな」
純粋な気持ちで、心配をしてくれる志乃ちゃんに不純な気持ちで返答する俺。あー今上手いこと言ったなぁ。
俺が自画自賛していると志乃ちゃんはよく分かりなさそうな顔をうかべるが、すぐに表情を変えて服の方を眺める。
「可愛いなぁ……」
独り言のようにつぶやく。その声は俺に聞こえるように言う訳ではなく、自然と口から出たような、そんな感じ。
「いいじゃないか、志乃ちゃんの欲しいものはなんでも買ってあげるぞ」
俺がそう言うと、志乃ちゃんは、弱く笑う。少し寂しそうな顔をうかべる。そして自分のジーパンを触りながら、こんなことを言う。
「私はこういうのでいいの。スカートとか女の子っぽいのって私は似合わないから。可愛いのなんて私が着てたら笑っちゃうでしょ?」
そう言って淡いピンクのスカートから、目を逸らして歩き出そうとするから、俺は志乃ちゃんの柔らかい手をそっと握って引き止める。
「誰が笑うんだ?そんな奴がいたら俺が黙らせるしさ。そもそも着てみないと分からないし、俺が着て欲しいなって思ってるよ」
「私はスカートなんて履いたことないし、絶対に似合わない」
そう言ってお店の前でモジモジとする。クールな女の人みたいな格好をしてるのに、少し引っ込み思案なのだ。そんなところも愛らしい。
そんなことをしていると、お店の人とバッチリ目が合う。ニコッとこちらに笑いかけてきたので、今しかない。そう思った。
「ほら、早く試着しに行こう!お姉さん、この人に似合う服ってありますか?」
「ま、まってまだ着ると決めたわけじゃ!?」
お店の前でまだゴネている志乃ちゃんに店員さんが近づく。そして崩れることがない営業スマイルで、志乃ちゃんに声をかける。
「彼氏さんが期待してますよ?可愛くなって彼氏さん、ドキドキさせちゃいましょー!」
「え、あ、彼氏じゃな……///」
「うわぁ、お客様ものすごく可愛いじゃないですか、これは選ぶ甲斐があります。ほら行きますよ?」
ノリノリな店員さんに抵抗が出来ない志乃ちゃん。助けて、と目線を送ってくるが俺は親指を立てるだけで何もしない。
まぁ行く前に一言だけ声をかけとくか。
「絶対に似合うと思うんだ。期待して待っとくよ、志乃ちゃん」
「あう…っ///」
縮こまって、トコトコと店員の後ろを着いていく志乃ちゃん。耳が少し真っ赤になっているのが見えて心から可愛いと思う。
店員さんは志乃ちゃんの耳元で囁く。
「お客様……絶対、あの男の人のこと好きですよね?」
「……!?違います!違うと思う、多分」
「可愛すぎです」
そんなガールズトークが相模の聞こえないところで行われていた。
♣♣
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