第29話

俺たちを涼しい風が歓迎する。後ろで、大きな声で笑う志乃ちゃんがいる。彼女を後ろに乗せてバイクで走りたいなんて言う小さな夢は今、叶った。


その夢を一緒に叶える相手が、志乃ちゃんで良かったと心から思う。そんなことを思っているとも考えていないであろう、志乃ちゃんが思っていることをそのまま口にする。


「気持ちいいー!」

「最高だな。疾走感がたまらないだろ?」

「うん!」


そんな会話をしながら道路を疾走していると、あっという間に大型ショッピングモールに到着した。


「こういうところ、初めてくるかも」


もう驚きはしない。志乃ちゃんは何も体験しなさすぎている。一つ一つを俺と一緒に知っていけたらいいなと思う。


「ここに来たらほとんどそろうと思うぞ?あと欲しい家具とか家電とかあったら言って」

「私は現状、ただの居候だよ?そんな良くしてくれなくてもいいのに」


そんな謙虚な姿勢を見せているのは口だけで、志乃ちゃんは周りをキョロキョロしながらとても楽しそうにしている。


ハッ〇ーセットのおもちゃを選ぶ時の子供のようにワクワクしている志乃ちゃんを見ていると保護欲が湧くのは当然だろう。


「かっこいい格好も台無しだな」


クール系なお姉さんというコンセプトはもう狙えないかもしれない。読者モデルに選ばれたとしても、どこか残念なお姉さんになることは間違いなしだろう。


まぁ、そんなところも好きなんだけど。惚気けるなって?そんなの知らねぇよ。


俺が少し目を離した隙に、志乃ちゃんは家電コーナーへと吸い込まれて行く。


「炊飯器とお弁当箱が一緒になってる!こ、これは自宅で炭酸水を作れるの?凄っ!」


そんなことを言いながら、最新の家具に引き寄せられていく志乃ちゃん。そんな姿にすかさず店員が話しかける。


「お客様!何か家具をお探しですか?これとかどうですか?小型の洗濯機!旅行先に持っていくことで汚れた靴下などの下洗いなどができますよ」


そう言って家具を勢いよく紹介していく店員。あわあわと慌てている志乃ちゃん。天下の暗殺者もこれにはたじたじだ。俺に助けるように目線を送る志乃ちゃん。


こうなるだろうと思ってはいたので、すかさず助けに行く。


「すみません、別に買うつもりは無いんで。行こっか、志乃ちゃん」


俺が手を引いて帰ろうとした時、店員は少しにこやかな口調で俺を呼び止めるように言葉を放った。


「可愛い彼女さんですね。ところで電動マッサージ器とかどうですか?必要ですよね?」

「……!?」


こいつやりやがる。オレの三大欲求をくすぐりやがって。買うつもりなんて毛頭ないが、まぁここはわざとつられてやるか。


「おすすめはあるか!」

「もちろんです」

「え、ちょ、待ってよ。なんでマッサージ機なの?」


そういうのに疎い志乃ちゃんは気づいていないだろうが、バッチリ下ネタである。ちなみに店員は女の人です。


「初心な彼女ですね。本当に可愛い方で」

「まじでそうなんですよ!」


♣♣

星が欲しい。

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