第17話

ヘンタイと描かれたオムライスが俺の前に運ばれてくる。それへの抗議の意味を込めて暗殺者の方を見ていると、怪訝な目でこちらを見てから、


「早く食べないと冷える。私ばっかり見てないで食べて」

「そんな急かさないでも。オムライスは逃げない。いただきます」


俺はホカホカのオムライスを口に運ぶ。優しいふわふわの卵に舌鼓を打つのはもちろんのこと、トマトの酸味に見事にマッチにしていて、素材そのものが美味しいと感じられる。


落ちてしまいそうになる頬を片手で抑える。止まらないスプーンを動きに合わせるように口を開いていると、いつの間にか目の前からオムライスは消えていた。


「美味かったよ。シェフを呼んでくれ!お礼が言いたい」

「はいどーも。シェフです」


そう言って俺に向かって暗殺者はぺこりと頭を下げる。そんな姿に俺は過剰に反応する。


「な、なんと!こんな美人な人がシェフとは。どうか俺の部屋で二次会とでも行きませんか?」

「どこの世界線でシェフをナンパするの」

「いや、暗殺者ちゃんだから、何回も恋に落ちちゃうんだよ」


俺が恥ずかしいセリフを息をするように吐いていると、暗殺者はケチャップのように赤くなってごにょごにょ、と口ごもった。


「俺にしても美味しかったよ、オムライス」

「そう、なら良かった。久しぶりに料理したし、どうかなって思っていたんだけど」


そう言って暗殺者はフライパンを振るジェスチャーをする。自炊しない理由がそこにあったからで、誰かに作ってもらっていたのかもしれない。


「なんで最近、料理していなかったの?もしかして料理上手な男とか.......」


俺が心配の言葉を吐くと、横に首を軽く振った。そして俺の方をピシッと指さして、恨めしそうな顔をこちらに向けた。


「相模のことを調べていたの。1人になるタイミングや、帰る道。出身や、学歴とか」

「俺の隅々まで調べていたなんてえっちだね、暗殺者」

「わざと証拠を残していたくせに何を言っている。というか、学歴とかはいくら調べても出て来なかったけど」


暗殺者は疑うような顔をする。そもそも俺は高校にも大学にもいっていないから学歴は出てくるわけない。


でも大学受験をしたら旧帝大に簡単に受かるだろう。それほどの自信が俺にはある。暗殺者ちゃんを養う男として、頼りないやつじゃ怒られてしまう。


そんなことを思っていると、暗殺者はなんか重いことを切り出すようにしてどうでも良いことを聞いてきた。


「お風呂に入りたいです」


暗殺者はチラチラとこちらを見ながら、許可を待っている。もちろん全然OKなのだが、少しいじわるしてやりたいと思う。


「俺と一緒に入るならいいよ」

「私.......スタイルに自信がないから、嫌」

「え.......。入るのはいいの?」


そういうと、少し驚いたような顔になってから暗殺者は横に思いっきりブンブンと振った。


「いやだけど。濡れた髪の私を見たくないの?相模は」

「みたいです!」

「じゃあお風呂に入らせて」

「どうぞ!」

「.......ちょろ」


そう言って、暗殺者は席を立った。そして俺の方をじろりと睨むと、注意するようにして年を押してきた。


「絶対に覗かないこと。覗いてきたら殺すから」


それだけ言うとお風呂へと暗殺者は向かった。俺は最大の敵は自分自身という言葉を知った。


行ってはいけないという理性と行けという純粋な性欲。俺は悩んだ末に結論を出した。


♣♣

星が欲しい

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