第15話
暗殺者はスタスタとキッチンの方に歩いていってしまったので、後ろを追いかけるようにして、キッチンへと向かった。
冷蔵庫を開けて、暗殺者は俺の方を驚いたような顔で見る。
「相模、よくこんなスカスカで生きていってる。食料が全然ない」
「すごいだろ?男の一人暮らしってこんな感じだぞ?」
おれが自慢げに語ったのだが暗殺者にはひびかなかったらしい。呆れたかを浮かべて、もう一度冷蔵庫のほうに顔を向けた。
「褒めてないし。辛うじてあるのは卵とこれはいつのお肉?」
「これは暗殺者に殺されかけた日に買ってきた肉だからまだ1日くらいしか経ってないと思う」
俺がそういうと、暗殺者は少し気まずそうな顔をしてから、少し黙った後に今日の晩御飯を伝えた。
「これだけあればオムライスくらいはできると思うから。あと念のために聞くけどこの栄養補助食品は何?」
「それはたったの10秒でその日のご飯がすんでしまう、魔法のご飯だよ。それに何度助けられたことか」
「これは栄養を補助するだけです。そもそもそんな食事取ってて、よくそこまで体を鍛えられたものね。もしかして危ない薬やってる?こうやってさ」
そう言って手首あたりに注射器を打ち込むような素振りを見せる。
もちろんそんなものはやっていないし、それよりもやばい人殺しをしている暗殺者には言われたくない。俺も言えないのだがな。
「生まれた時から、叩き込まれたんだよ。あの業界で生き延びるためにな。そのおかげでこうして生活出来ているし、暗殺者と出会ったし」
「私と同じ。私も物心着いた時にはもう手に拳銃を握ってた。今では卵を握ってるけどさ」
そう言って、彼女は自分を卑下するように笑う。暗殺者は卵を綺麗に割って、かき混ぜ始めた。明らかに手馴れた手つき。これにはシェフもびっくりだ、など明らかに好きな人補正がかかった物の見方をしているとふと疑念が浮かんだ。
俺以外の男に料理を振舞ったことがあるのだろうか?なんてメンヘラじみたことを思っていたが、男のメンヘラは需要がないのでやめておくことにする。おれがどうでもいいことを考えていると少し怪訝な表情をした暗殺者が俺に声をかける。
「ジロジロ見ていられると気が散る。ソファでゴロゴロでもしてきたら?」
そう言って手でシッシッ、と虫でもはらうかのように扱う暗殺者。でも俺はどこかへ行くつもりは一切ない。
「だって暗殺者が初めて俺のために料理を作ってくれてるんだよ?見ないわけない」
「そんな目に焼きつけるようにして、見なくてもいつでも見れるでしょ?あ!もう。話してたからお米炊くの忘れてた。暇ならお米でも洗って」
そう言って、炊飯器の方を指さす暗殺者。炊飯器は何ヶ月かぶりに出番がやってきたことに歓喜しているようだった。ごめんな。男はご飯なんて炊かないんだよ。
お米は前に買っておいてそのままのものがあった。いつのものかは知らないが。そんなことよりも暗殺者は普通にいつでも見れるとか言っていたが.......。
「いつでもみられるって、暗殺者はこれからも俺のために料理を作ってくれるのか?」
「だって私は監禁させられてる」
「まぁ、そうなんだけど.......」
俺がそう言うと、俺の手の方をビシッと指さして、暗殺者は言う。
「ほら、口じゃなくて手を動かす」
「これが俺と暗殺者ちゃんの初めての共同作業だね♡」
「.......ケッ」
暗殺者は心底、嫌そうな顔してから深くため息をついた。卵をかき混ぜるスピードを強くすると、嫌味を吐いた。
「この料理が最初で最後であって欲しい...って私を撮るなぁ!?」
俺がこっそりスマートフォンで、暗殺者のことを盗撮していたことに気づかれてしまってカメラは止められてしまう。
しかしきっちりと暗殺者ちゃんが初めて料理を作ってくれた時の映像を録画できた。結婚式の時にでも流すとしよう。
「なんか暗殺者.......新妻みたいだな」
「まだ結婚はしていません!」
「.......結婚はしていないってことはぁ?」
「付き合ってもない!」
そう言ってぷいっとそっぽを向かれてしまったが、そんな拗ねた姿もエプロン姿の新妻スタイルの暗殺者の前では可愛さへと変わってしまうのだった。
卵をかき混ぜる暗殺者ちゃんは背中が無防備なので抱きついてやりたかったが、そんなことをすると卵みたいに頭を割られるかもしれないのでやめておくことにした。
♣♣
星が欲しい。
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