第14話
泣き止んで少しだけ冷静になった暗殺者がこすった眼を赤くして謝る。終えからしたら謝罪なんていらなかったのだけれども彼女がそれで満足するなら甘んじて受けよう。
「なんか、ごめん。私もよく分からないんだけど、涙が止まらなくて」
暗殺者がぺこりとあやまる。少し恥ずかしそうに頬をかく。気まずそうにしてるのでこの状態をジョークに変えようとする俺のむなしい努力を見てほしい。
「あれだ、暗殺者だけ弱い所を見せるっていうのもフェアじゃないと思うんだ。だから俺も弱い所を見せたいと思う」
「そんな……気にしなくていい。私が勝手に、なっちゃっただけだから」
「俺の弱いところはここら辺」
俺は上半身の服を脱ぐ。唐突に起こったことに暗殺者は口を大きく開けて驚く。そして自分の目を手で覆うが、間からチラチラ見る。
「背中のだな、肩甲骨と肩甲骨の間の当たりが多分、弱いところだと思う」
「まさかの物理的!?ばかなの?」
俺は暗殺者に背中を見せる。暗殺者はそんな姿に冷ややかな目を送る。俺が言ったところを指でそっとなぞる暗殺者。
「あうっ///」
「ばか。へ、変な声ださないで、相模。なんかいやらしいことしてるみたいになる」
「え、これって前戯じゃなかったの?てっきり俺はこのままの勢いで、ベッドまで行くのかと」
「はぁぁああ~~」
暗殺者は大きくため息をついた。そして、俺の背中を思いっきり平手打ちした。部屋全体にパチンと風船が割れたかのような音が響きわたる。その音に合わせて、何かを暗殺者はつぶやく。
「さっきはなぁ……」
「なんか言った?」
「死ね、バカって言ったの」
そういって、下を向いてしまった。俺は暗殺者に叩かれた背中をこすりながら彼女のことをほめる。
「暗殺者ちゃんってドS?いい叩きだったよ」
「気持ち悪……。ちょっとでも勘違いした私が馬鹿だった。やっぱり相模は相模」
「勘違いって何が?」
「知らん、忘れた。それよりも晩御飯はまだ?」
暗殺者は呆れたように、晩御飯を嘆く。がせかすように地面をたたく。ずいぶんとここでの生活に慣れたらしい。ぐだあ、と姿勢を崩している。今の彼女を見て暗殺者だったなど信じてはもらえないかもしれない。
といいますか、俺はさっきまでずっと暗殺者の横にいたためになんの用意も出来ていない。俺は料理に関する雑談を振ってみる。
「暗殺者って料理できるの?」
「まぁ、一人で暮らしてたんだし一応」
てっきり一人で部屋にいたから、料理を運んで来てもらっていたのかと思っていた。というか、なんでも揃っているワンルームってどんなところだよ。これは悪口になるかもだが、自炊ができるような子には見えなかったから、少し驚いた。
「一緒に作る?そろそろ暗殺者ちゃんをずっとここに縛っておくのも、なんか気持ち的にあれだし」
「相模はそんなことしていいの?私は相模を殺すかもしれないんだよ?」
そう言ってじろりと俺の事を鋭く睨むが、さっきの泣きじゃくっていた暗殺者を知っている俺は冷静に対処ができる。
「俺がいなくなると寂しくなるんだろ?」
彼女をからかうように俺が言葉を発すると、暗殺者は姿勢を正す層に驚いた。
「な、なぁ!?」
「それに暗殺者に殺されるなら本望だよ」
そう言って俺はカチャリと手錠を外す。暗殺者は立ち上がって軽くジャンプをして、ストレッチを少ししてから俺と向き合う。
「相模は優しすぎる。この業界に優しさは1番要らない。その優しさで命が無くなるかもなんだよ?」
「言っておくが優しさじゃなくて、愛だからな?そこを履き違ってもらっては困る」
「また、そんなことを言って誤魔化す。でもその愛とかいうものに命を救われた私だし、文句は言わないけど」
そう言って、暗殺者は俺から目をそらす。そして指先を遊ぶようにくねくねさせてから、不器用に笑う暗殺者。そして口を開く。
「私もいつかその愛とかいうものを理解できたらいいな、なんて言ってみたり……?どうかな」
「今、俺は暗殺者への愛でいっぱいです。もうほんと、大好き暗殺者ぁ!」
俺が抱きつこうと暗殺者に向かって飛びつくが、暗殺者はそれをひらりとかわして、こっちを向いてヘラりと笑った。後ろに手を組んで何かが吹っ切れたような声で患者を告げた。
「今日は胸を貸してくれてありがとう。また、いつか私の過去も聞いてね」
「あぁ。嫁さんの全部を知るのが夫の役目だからな」
「夫は知らないことなんだけど、とりあえずよろしく」
そういうと手をヒラヒラさせて暗殺者は軽いステップでキッチンへと向かった。
そんな姿を後ろから眺めて、将来『ご飯にする?お風呂にする?それとも私?』とかいう最高のセリフを暗殺者バージョンで、脳内再生した俺だった。
♣♣
星が欲しい。
ラブコメ部門週間も1位になってました。これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
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