第10話

ナポリタンを作ろうと思ったんだが、肝心のパスタがなかったために断念した。


そろそろ買い出しに行っても大丈夫だと思うんだけど、まだ警戒されてるかな?俺はもう暗殺者に殺されて死んだと思ってくれれば楽なんだけどな。


そんな簡単に行かないから今も逃げ続けているんだけど。


もう少しで右足も治りそうだし、そこそこの相手とならやり合える気がしてきた。今なら暗殺者とやっても100回に1回負けるくらいだろうけど、暗殺者を傷つけるようなことはしたくない。


「よし、タコパでもしよう」


これなら片手しか使えない暗殺者も楽しむことが出来るだろう。


そう思ってたこ焼き器の準備を進める俺と、ガスコンロの火をつけたり消したりして、遊んでいる暗殺者。(良い子は真似しちゃダメ)


「暗殺者はたこ焼きの中に何入れたい?あ、タコ以外でだぞ?」


俺がそう言うとキョトンとして顔でこちらを見てくる。俺が張り切ってタコパの準備をしているのが、そんなに不自然か。


「たこ焼きって何?」


至って真面目な顔でそんなことを聞いてくる。もしかしたら暗殺者は娯楽や美味しいものな触れずに育ってきたのかもしれない。


俺が色んなところや美味しいものを食べさせに行かせなければ!という謎の使命が俺の中で生まれた。


「大阪の名物みたいなものだよ。食べてみれば分かるけど外はカリッと中はトロッて感じ」

「それは美味しそうな気がする」


そう言ってたこ焼きの出来上がりを待つ俺たち。暗殺者は唾を飲む。


「相模は、U〇Jっていうテーマパークを知ってるのか。私も人から聞いた話だから都市伝説だと思っているんだけどな」

「US〇は存在するぞ?俺も一人で行くのは恥ずかしいから行ってないけど」


そんなふうに俺が言うと、暗殺者はふーんと、どこかはっきりとしない返事を返したあとに、ニヤリと笑って、


「相模はどうせ彼女がいなかったからいけなかったんだよね」

「俺に彼女がいなかったって何時言った?」

「えっ、もしかしていたの……?」


どこか、深刻そうに聞き返す暗殺者。そんなに俺に彼女がいるのが不思議なのか。都市伝説とでも思っているのだろう。


「俺にはクールで可愛い暗殺者ちゃんがいるからなぁ?トイレの時、了承したしな」

「なんだぁ、私か……。って、良いわけない!あれは思考が回ってなかったから」

「じゃあ、やり直ししよっか、告白のやり直し」

「え……」


関係も良くなってきた事だし、少々体に触ってもいいだろう。俺は唐突に暗殺者の空いた左手をもってバンザイさせるようにして、壁につけた。


暗殺者は無防備な姿を晒す。俺は左手を壁に抑えたまま少しバタバタと抵抗している暗殺者の顎を少し上げる。本から学んだテクニックである。


『顎クイ』


というものらしい。そして前までの会話で分かったことだが、暗殺者は命令口調に弱いらしい。俺はあんまり得意ではないが、可愛い顔を見るためだ。仕方ない。


「俺の物になれよ、暗殺者」

「……はぅっ///」


暗殺者は弱い声を漏らす。YESかNoでもない。でも表情はNoと言っていなかった。


耳まで真っ赤して、口をパクパクとさせながら、俺の目を1回みたら、すぐにそらすという行動をとっていた。


でも覚悟を決めたかのように俺の目を見ると、一つ一つ言葉を選ぶようにして話す。


「も、もう少し一緒にいたら考えてあげない手もない……と思います」

「え……まじ?」

「……まじ」


そんなふうに返事を返す頃にはたこ焼きは美味しそうに出来上がっていた。だが、今は俺の中で嬉しいという気持ちが体を巡っていた。


「……早く、たこ焼き食べよ。いい匂いしてるし」


暗殺者は動揺している俺の手を軽く振り払うと、たこ焼きの方に寄っていった。


今はたこ焼きだ、と切り替えた風を装っているが、耳が赤い暗殺者。俺の鼓動がまだ早いように、暗殺者もまた早いのだろうか?


それなら俺を少しは男として見てくれているから嬉しいけれど。


♣♣

星が欲しい。



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