第8話

俺の朝は早い。目覚ましが5時半になる。寝不足が極まって寝るのは少しだけで元気よく目覚められるようになってしまった。


これを自分でショートスリーパーなだけだと結論づけたが、病院に行ったら不眠症と診断されるだろう。


寒い……。季節は春に差し掛かっているが冬である。何をやっているんだおれは。風でも引いたらダメだろ。ベッドに布団は存在せずに、ベッドの下に落ちているのかと確認する。


徐々に意識が覚醒してきて、昨日起きていたことを思い出す。暗殺者に布団をあげたんだった。


昨日は気温なんかよりも気にすることが多すぎて気にならなかったが、普通に寒い。


暖かいコーヒーを入れよう。今日は土曜日だし、仕事はない。ゴロゴロとできるはずだ。本でも読もうか。そういや、漫画が溜まっていたはず。


そんなことを思いながら、寝室からリビングへと足を進めた。そして俺は天使あんさつしゃを目撃することになる。やはり、俺が寝た後も警戒したりなどしていたのだろう。ぐっすりと寝ている。


「可愛すぎる……」


昨日は暗くてよく分からなかったが、やはり端正な顔立ちだ。どこかSっ気がある顔は俺の性癖にどストライク。


暗殺者の格好は一言で言うと、エロい。というか、露出が多い気がする。こんな服で俺を殺そうとしていたのかと思うと、驚きが隠せない。


別の意味で襲おうとしていたのかもしれないという結論が出た俺は、欠伸をしながら珈琲を沸かす。その後に洗面所に行き、歯磨きと寝癖を整えてその後に暗殺者の元へと向かう。


「ほっぺ柔らか!ていうか寝顔可愛すぎだろ」


無防備な寝顔を晒す暗殺者は、昨日の夜の鋭い口調の人だとは思えないくらいの愛おしい顔をしていた。


俺の布団を離すまいと握りながら寝ている姿を見ていると、俺が寒かったことくらいどうでもいいことのように思えてきた。あれだな。俺の布団を抱きしめているということは俺のお嫁さんになったということだな。


そんな暗殺者の姿をスマホで写真を撮ってしまうのは仕方ない。怒られた時は怒られたときだろう。


そんな中、暗殺者が目を擦りながら目を覚ます。寝ぼけている眼をこすりながら周りを見渡して、自分が置かれている状況を把握したようだ。


「むぅ?……はっ!相模……。朝起きて最初に見る顔がお前とは。ここ最近で最悪の目覚めだ」

「俺は起きてすぐに暗殺者の寝顔を拝めたのは最高の目覚めだよ。ほら、コーヒー」


俺が手渡したコーヒーを受け取る暗殺者。毒が入っていないかという確認をしなくなったのは、少し信用してくれたということでいいのか。それともまだ少し寝ぼけているのだろうか。


「しかし、朝起きて人が周りにいるなんて何年ぶりだろうか……」


コーヒーをすすりながら、暗殺者が少し弱い笑みを浮かべながら呟く。暗殺者と違って、ソファにもたれている俺は呑気に返事する。


「……ん?暗殺者はどんなところに住んでいたんだ?」

「研究所の一室だ。ほとんど人は来ないし、衣食住はほとんどそこでできるような広い部屋だった。」

「なんだ、柱にずっと繋げている俺への当てつけか」


そう思ったので、俺はソファから降りて地面に座った。そんな俺の仕草を見た暗殺者はそんなつもりで言ったのではなかった、と否定する。


「まあ、この場所も嫌だけどな。でも研究所は寂しい場所だったような気もする。あまり覚えていない。あの時は人と話すこともなかったから」


淡々とここに来るまでの話をしてくれる暗殺者。特に話してと言ってるわけでもないのに、なんか話してくれている。くらい雰囲気になってしまったので少し和ますために、冗談を言ってみたりする。


「昔話なんか、してどうした暗殺者。あれか。『今の私じゃなくて過去の私も好きになってぇっ///』みたいなやつか」

「はぁ……。お前に話した私が馬鹿だった」


そう言って、呆れたように暗殺者はため息をつく。でも本当に失望した訳ではなく、義務的にという感じだった。そんな姿を見て、また俺は笑ってしまう。


「嘘だって。暗殺者のこと好きだし、過去のことも含めて好きになりたいと思ってるよ」

「知らん。私は別にお前に好かれたいと思ってないし」

「暗殺者ちゃんはツンデレだなぁ」


そう言って俺は笑う。何を言っても無駄と感じたのか、黙った暗殺者が次に口を開いたのは珈琲を飲み終わった時だった。


「まぁ、お前と話していると少しだけ楽しい気もする。本当に少しだけ、だが」


何かを期待するように話を振る暗殺者。初めて暗殺者がデレた気がするが、ここで可愛いなんていったら、多分もうデレてくれないだろう。


だから比較的淡白に返事をする。


「そうか、なら良かった」

「え、え?なんか言わないのか?」


やはり少し拍子抜けたような顔でこちらを見てくる暗殺者。その顔を見て俺は悪戯心をくすぐられる。


「なんだ?俺がデレた暗殺者ちゃんも可愛いって言ってくると思ったのか?期待しちゃったぁ?」


不意をつかれたような顔をして、耳を少し赤くする暗殺者。犬のように俺の事を牽制する目をする。


「そんなことはない!何を自惚れている。もうどこかへ行ってしまえ」


そう言って、そっぽを向いてしまう暗殺者。そもそもここは俺の家だから、どこにも行けないのだが。それに、どこかに行けって言われたらここにいたくなるのが人間のさがでして。


今日の休日は暗殺者の隣で本を読むことに決めた。


♣♣

星が欲しい。










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