第6話

俺がソファーにゴロゴロしながらスマートフォンをいじっていると、手錠に繋がれた暗殺者はウトウトとしていた。首を痛めないものかとスマホ越しに心配していたのだが、やはり気になって彼女のもとへと駆け寄った。


俺が近づいても気づかないくらいまでに意識を手放していた首で船を漕ぐ暗殺者をからかうように話しかける。


「眠たくなってきたか?」


俺がそう質問すると、はじかれたように飛び起きた暗殺者。自由の右手で垂れていたよだれを拭うと真面目そうな顔を作り直す。もう手遅れだと俺は思うが。


「はっ!私は寝ないし、寝てないぞ。いつでも相模を見張っているからな」

「ウトウトしてたけどな。じゃあ、一緒にコーヒーでも飲むか?」


カフェインという1番欲していた物を敵からくれるというのだから、嬉しいだろう。しかしこの世界には良い事が起こると悪いことが起きるということもまた一つ事実である。確実に何かを要求される。そう思ったのだろうか、暗殺者は疑うように俺に質問する。


「いいのか……?私は客人じゃないぞ?び、媚薬とかでも入れるのか」


そうやって、まだ俺を信じきっていない様子である。悲しいなあ。


まあ暗殺者にとって俺はターゲットだっただけに殺す相手なわけで、そんなやつを信用しろという方が難しいか。悪い印象を刷り込まれていたのかもしれないし。


「そんなことをしない。そんな風にするならとっくの昔にしてるって。将来の嫁を薬漬けになんてするわけないだろ」

「そ、そうか。まあ、私はそんなことをしなくてもとっくの昔に壊れてしまっているがな」


そう言って、暗殺者は力なく笑った。どこか悲しそうな顔をする彼女に庇護欲をそそられる俺もとっくに壊れてしまっているのだ。彼女は何か俺に行ってほしかったわけではないと思う。


でも俺が何か言ってあげなかったら、彼女が救われるなんてことはない。身勝手ながら俺は言葉をかけることにした。


「暗殺者様。自分が壊れてるのを気にしているなら、ここにピッタリの品物があります」

「……何してる」

「特殊工作員として、何人も人を葬ってきてとっくに壊れ慣れていて、そんな暗殺者の心も分かって、愛してあげると宣言している人がこちらはご用意できますが?お買い得価格にしときますよー」


さっきまで暗かった暗殺者の顔は、俺へのアホだなぁという蔑むような顔に変わった。暗殺者はそういう顔が似合う(褒めてる)。


「それって絶対欠陥品。私は衝動買いはしないタイプだから」

「それは俺の帳簿を握る役割を担うのに、いいスキルだね。まぁ、暗殺者にお金の心配させないくらいに稼いでこようとは思うけど」

「相模はお金の心配なんて……。軽く3.4億円位は持ってるでしょ」

「暗殺者は使い切ると思う」

「私は極限まで節約するのが好きで、ってなんでこんなことをターゲットに話して。私は暗殺者失格だ……」


暗殺者は座り方をあぐらに変える。警戒心が無くなってきたのはいいことだ。猛獣が番犬に変わったくらいか。そんなに変わってないって?そりゃそうだろう?まだ手錠を外せないんだぜ?


「いい匂い……」

「コーヒーが出来たみたいだな。俺は喰〇だからコーヒー以外味がしないんだよ」


住んでいるところは大阪なのだが東京〇種の話をする。暗殺者は呆れたようにツッコミをいれる。これは大阪のノリである。


「相模が喰おうとしてるのは私だけでしょ」


そんなツッコミをポロッとした時に、しまったと言わんばかりに暗殺者は口を抑える。それにすかさず、詰め寄る。


「今のは私以外の女の子を抱かないでぇ!って事かな?暗殺者ちゃんに独占欲が芽生えてヤバいって言う題名で小説でも書くか?」

「相模がどこの誰と遊ぼうが、私は知らんし、どうでもいい。どうせ童貞だから誰にも手を出せないと思うけど」


暗殺者はそう言って鼻で笑う。俺の煽りにもボロを出さないあたりは、さすが暗殺者。


そんな暗殺者とコーヒーを飲んで夜を明かすために俺は立ち上がって、カウンターへと向かうのだった。


♣♣

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