第4話
手錠に暗殺者を結びつけてから、既に4時間が経った。辺りは、一層暗くなって月が綺麗に輝いているのが、窓から見える。
綺麗な満月なので、夏目漱石ばりの月が綺麗ですね、を暗殺者に炸裂させようかと思ったが、そんなことを言ったら俺の血で紅い月に変わってしまいそうなので、黙っておくことにする。
ふと時計を見ると、時刻は既に深夜0時を回っていた。焼きそばを食べ終わってから一言も発していなかった暗殺者が、口を開いた。
「おい、相模……」
「なんだ、暗殺者」
感情をあまり出さない暗殺者なんだが、俺から少し目を逸らしながら、若干恥ずかしそうな顔をして懇願する。彼女から話しかけるなんて初めてのことだった。
「手錠を外して欲しい」
「それは無理だ。俺には命がかかっている。外す時はそういう行為におよぶ時だけで」
「本当に頼む……」
暗殺者の息遣いが荒くなる。彼女は確実に俺の事を落としにきている。これはハニートラップというやつか。俺は抵抗するように言葉を続ける。
「おぉ……。その可愛らしい美貌で俺を騙そうとしたってそうはいかないぞ」
俺がそんなことを言ってると、足をバタバタとさせている暗殺者。クールな暗殺者から焦りの表情が、見て取れる。絞り出すように言葉を選んで伝えた。
「お願いだから花を……つませに行かせて」
「あっ、そういう……」
小声で細々という暗殺者。でも手錠を外すと殺されてしまうかもしれない。
デメリットが大きすぎる。このまま逃げられてしまっては俺の楽しみがなくなってしまう。なにか俺が手錠を外すためのメリットを提示してもらわなければ。
まったくwin-winの関係ではない。
「俺はさ、手錠外すのにデメリットが大きすぎるんだよ。なにか、俺に外すメリットをくれよ」
「そ、そんな……。私は人を傷つけることしか出来ない」
少ししょんぼりとした顔になる暗殺者。いやいや、できることは山ほどあるだろとツッコミを入れたかったが、まずは俺の願いを聞いてもらうことにする。
「じゃあ、俺の彼女になってくれ」
俺がそう言った後、数秒の沈黙があった。そして俺の顔を再度見て、決意したかの表情を見せた。そして少し上ずった声で俺をせかすように言う。
「分かった。わかったから彼女にでも、何にでもなってやるからトイレに行かせてくれ、頼む」
ブンブンと縦に首を振る暗殺者。それだけで俺は満足した。手錠を外して、自由にした。一時的にだけど。
それに我慢させるのは良くない。将来、俺のお嫁さんになる予定なのに、病気になってもらっては困る。
「突き当りを右だ」
「ありがとう」
そうお礼を言うと走ってトイレへと暗殺者は向かった。俺はさっきまでの録音していた会話を再度、流してみる。女の子との会話は録音するべきだろ?そうではないのか。じゃあ、俺はおかしいのかもしれないな。
やはり暗殺者は俺の彼女になることを了承している。これはもう、行為を認めたも一緒なのでは……。でもこういうのは結婚してから、というのも聞いたことがある。
彼女から特大の飛躍を飛ばしていた。
俺は暗殺者が帰って来るまでの間、暗殺者はどんなコスプレが似合うのかということを考えながら待った。もちろん瞑想しながらである。妄想にはお金がかからない。
やはり、そんな無防備な状態で、暗殺者を待っていると彼女に背後をつかれてしまった。暗殺者は素早いステップで俺の後ろに回り込んだようで。
暗殺者は俺の首元に腕を回す。ヘッドロックの体勢に入る。が、力は入っていなく俺にまだ俺に呼吸の余裕を残してくれているらしい。
「相模、お前はなんなんだ。私を殺せばいいはずだ。私はお前を殺そうとしたんだぞ?何を考えている」
「いや、だから俺の初めての人になって欲しいと」
耳元で囁く暗殺者。多分、俺をキュン死させようとしているのかもしれない。さすが、暗殺者だ。それと俺が回答した瞬間に首を絞める強さが少し強くなった。
彼女の得意技は、ハニートラップだったのかもしれない。
「今、お前を殺そうとしたら殺せる。でも、私も恩を仇で返すような阿呆じゃない。ここは大人しく捕まるとしよう」
「もしかして、暗殺者ってマゾ?」
「あんま、調子乗ってると殺すぞ」
そう言いながら自ら、柱の方へと向かう。右足を負傷している俺と暗殺者なら勝率は五分五分か、彼女に分がある。しかし彼女は俺を殺すという選択をとらなかった。この戦場に甘えや情けはいらない。なんなら殺されても仕方ないとすら思っていた。それが彼女にとっての最善の選択だったのだろう。
自分から捕まりに来た右の手首にもう一度、手錠をかける。そして俺は満面の笑みで暗殺者に告げる。
「君の心も捕まえちゃうぞ♡」
「……ケッ」
不快感に顔を歪めた暗殺者が目の前にはいた。鉄のおりのようなその心をこの手錠のように、簡単に開けることが出来たらどれほど楽だろう。なんて思った。
俺たちの夜は長い。
♣♣
星が欲しい。
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