第3話
ハイハイで向かった先には、カップラーメンと焼きそばが山のように積まれている。
料理なんて、カッコをつけたが、ただそこにお湯を注ぐだけの単純なもの。最近の晩飯はこれだけに頼っている。不健康というのは知っている。ただ、男の一人暮らしなんてこんなものだろう。
もし、暗殺者が起きた時用に、二つの焼きそばを用意する。ソースと塩の2つの味。どちらの方が好きだろうか。俺はどちらかと言うと塩なんだけどな。
そんなことを思いながら、お湯を注いでいると暗殺者がいる方から大きな物音がした。甲高い金属音。頑張って手錠を外そうとしているのだろうか。バタバタと暴れるような音がした後に、女の声が聞こえた。ドスの効いた声。とてもわいいといえたものではなかった。
「相模……」
暗殺者がおきたぁ!
俺はスキップをしながら、暗殺者の元へと向かう。右足の痛みなんてこの際どうでもいい。早く暗殺者の元へと行きたかった。クールな声色は俺を殺そうした時と同じだ。軽く殺気立ったもの。
手首をブンブンと振って、柱から手錠を外そうとしているが、俺と目が合った時に下手な足掻きは無駄と動きが止まる。
「一生の不覚」
暗殺者は俺から目をそらして下を向いた。その顔は絶望を感じているようで幸福に満ち溢れている俺とは真逆だ。
「不覚は『俺の事を狙った』ってことだよな?さぁ、どんなことをしようかなぁ」
俺は暗殺者が暗い顔をしているので、これから馬鹿みたいに幸せにすると決めていたので、最後の是壺顔を楽しんでおこう。そう思って演技を加味した発言をしたら、暗殺者は下唇を噛んで、悔しそうにした。
「殺せ」
暗殺者は俺に向かって懇願した。彼女がこういったのは捕まえたものを拷問してから殺す。その過程を経験し、または自分で行ったことがあるからだろう。
「殺すのはいいけど、えっちなことしてからだよ?」
暗殺者は俺の事をギリッと睨む。俺の事を蔑むような目で見た後に、すっと冷静な顔に戻る。そして落ち着いた声色で、この世の全てを悟ったような、そんな声で言う。
「私は女をもう捨てた。そんなことをしたところで何も起きん。何にも反応しない女を開いたところで楽しくないだろう?」
「え、何?処女なの?」
俺がそう言うと、暗殺者は顔を赤くしてこちらにジリジリとよってくる。が、手錠をしっかりとしめているので、そこから動くことは出来ずに悔しそうに言葉を漏らす。
「し、死ねぇ……。殺す、絶対に殺すからな」
「はいはい、話していいのは、ベットの上の喘ぎ声だけだぞ?暗殺者ちゃん?」
「相模、貴様……」
可愛い顔を歪ませ、怒っている暗殺者。少しからかいすぎたかもしれないと後悔するが、暗殺者が可愛すぎるのが悪いと思う。という開き直りをみせた。
暴れなさそうだったら、手錠を外そう。そう思っていたが本当に殺されかねないので、外すことは躊躇われる。
手錠を外せないとなるとご飯を食べることは難しくなることだろう。食べさせないということもできるが、そんなことをするはずもない。
ご飯は食べないと痩せて頼りない体になってしまう。それに柔らかい頬や二の腕がなくなってしまうなんて、絶対に嫌だ。そう思って、さっき作った焼きそばを暗殺者の前に置く。
「いるか?暗殺者」
「なんだ、毒入りか。ターゲットから恵んで貰うほど私は落ちぶれてなどいない」
そういって、焼きそばがこぼれないくらいの強さで足で遠くへとやる。完全に焼きそばから視線を切った。
「そっか……暗殺者はいらないか。じゃあ俺が食べるな」
そう言って、暗殺者に手渡した焼きそばを取り上げると暗殺者の方を向いてすすり始めた。それを黙ってみつめている暗殺者の赤い眼を眺めながら。
「美味っ!カップ麺こそ、至宝だな。あぁ、腹が膨れていくぅ!マジで美味いわ。え、ナニコレ。世界一うまい料理ですかぁ?」
「──……」
俺の目をジトっーと眺める暗殺者。待てをされた忠実な犬のように、黙ってこちらを見ている。そして少しずつ顔が苦痛に歪む。
「スパイスが効いてるわ。本当に無限に食えるわ。もう無くなっちゃうわ。もう一個に手をつけよっかなぁ……」
俺がわざとらしく声を出して食べていると、悔しそうに下唇を噛んでいた。
それでも何も言わない暗殺者だったが、体は腹の正直だったようで腹の音が鳴った。少し顔を赤くして、すぐにおなかを抑えて俺のほうを見て、言い訳の言葉を並べた。
「こ、これはちが……」
「ほらよ。腹、減ってるんだろ?これはあれだ。拷問だ。ご飯を食べさせる系の拷問?」
俺がそんなことを言っていると、少し呆れた顔をした暗殺者は箸を手に取る。そしていかにも取り繕ったような顔で自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「拷問なら仕方ない……」
そう言って、焼きそばを食べ始めた。何故か分からないが、涙を流しながら食べていた。そんなに焼きそばが美味しかったのだろうか?
「でさ……これを食べ終わったあと、食後の運動でもする?」
そういって、両手を揉みしだくジェスチャーを行ったところ、俺への嫌悪感が半端ない声で。
「……性欲の塊め……」
そう言って人畜無害の俺を、蔑むような目で睨む。どうやら暗殺者のガードは硬いらしい。
♣♣
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