第2話
一般家庭と同じところに建てられた俺の家に、持ち帰った暗殺者をそっと置く。一般家庭に住んでいて大丈夫なのかって?大丈夫なわけないだろ。でも海外逃亡するにも戸籍すら存在しない俺は軽くだました不動産屋の奴に頼んだここに住むしかなかったということだ。
力が向けて首が座っていない暗殺者を柱にもたれさせる。念を入れて彼女の手首と柱を手錠で繋ぐ。
暗殺者が仮に覚醒しても、そこから動けないことを確認した俺は一安心して、ソファに座る。ドーパミンが出て忘れていた右足の鉛玉の処理をする。ピンセットで抜くだけのお粗末なものだが、病院になんか行けない俺はこれくらいしか出来ない。
右足から想像を絶する激痛がはしる。そこら辺に落ちていた布を置く場で噛みしめて耐えきった。10年前は、よくあったことなので慣れてしまっている。はずだったのだが、久しぶりの痛みとの対面に涙が出てしまう。
「一週間は何も出来ないだろうなぁ……。そんなことより飯、あったっけ」
右足が治るまでは、どうせ激しいことは出来ない。外なんかに出ると、何があるか分からないので念には念を入れる。もし今誰かに襲われたら万事休すってところだ。
外に出られないとなると食料が無くなる=命の危機ってことだ。たくさん積み上げられた即席のカップラーメンに安堵した。
食料問題が解決したとなると、その場の勢いで持ち帰ってしまった暗殺者の方が気になる。足がまだ痛むためにハイハイで暗殺者の方に近づく。客観的に見たらとても間抜けなのだろうが仕方ないだろう。
柱にもたれたまま、少しも動かない暗殺者のことをのぞき込む。目を閉じて黒いマスクで鼻と口を隠しているために顔は全くと言っていいほど見えない。
なので、気絶している暗殺者を起こさないように、ゆっくりとマスクをとる。
「可愛いな、おい……」
目を閉じている暗殺者はクールな顔をしていた。綺麗な鼻筋に、女性を強調するようにいやらしい唇。化粧はしておらず、年相応とは言えない少し幼さも感じることができる。
柱に結ばれてだらしなく右腕をあげて、脇をがら空きにしている彼女は童貞を殺そうとしているとしか思えない。そういや、
童貞を殺すセーターとやらがあったような……。まあ、事実として俺を殺そうとしていたんだけど、暗殺者だし。
なんて笑えないボケを続けている。が、俺に少し魔が差す。男なんだし仕方ないと思う。
「でもさ、殺されそうになったんだし、ちょっとだけ悪戯してもいいよな……」
そう思って、柔らかそうなその頬に指先を伸ばす。俺の指先は暗殺者の頬に沈むようになくなっていった。思わず、そこから指を離してしまう。
マシュマロのように柔らかさ。押し返してくる弾力も感じられる。俺の指を感じたのか。少し顔を歪める暗殺者。
「女の人ってこんな柔らかいんだ……」
俺は初めて触る女の子という存在に驚きが隠せなかった。勢い余って何回も触ってしまう。
学生時代のほとんどは組織で動いていたから、屈強な男しかいなかった記憶がある。その屈強な男たちを高校生でまとめてたのは俺だけど……。
「二の腕にも触っていいかな……」
筋肉質なその腕に触ってみたいという欲が出てきた。その腕で、どれほどの人を殺してきたのだろうか。そんなことを思いながらも、俺は手を伸ばす。
少し二の腕に触れた瞬間に空いた方の左手で俺の腕を叩く。驚いて俺は後ろに下がるが、暗殺者は起きる素振りもない。ただ可愛い顔で寝息を立てているだけである。
「無意識で手を弾いただと……」
さすが、俺が認めた暗殺者なだけはある。その可愛らしい顔からは想像できないほど、鋭い手つきだった。
やっぱり女の子は怖い……。下手なことはせずに起きてからえっちの交渉しよう。俺の初めてはこの人に貰って欲しい。無理やりじゃなく心の底から、俺の事を愛した状態で。
そう思って、暗殺者を後にして俺はハイハイのまま晩御飯を作りに台所に向かった。
♣♣
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