第49話 利用される

「利用される、とはどういうことですか」


「そのままの意味ですガ」


 葵さんとアレクシアの間に火花が散る。


 中島さんはある程度慣れているものの、美鈴さんはすでに涙目だ。


「二人とも、それくらいにしておいて」


 アレクシアの碧眼と、葵さんの幼さを残す目線。それらと僕の視線が交差する。


「……」


「うう」


 先に視線をそらしたのは、彼女たちだった。


「ソウタの頼みとあらば、仕方がありませんネ」


「柳生さんが、そうおっしゃるなら」


 二人が素直に矛を収めてくれたので、僕は美鈴さんに向き直って頭を下げた。


「見苦しいところを見せてごめんね」


「ううん、いい。気にしてない、ない。それにしてもやっくんすごいね。あんな美人さんと北辰葵さんが、まるで借りてきた猫みたい。マジすごいよ」


「別に、すごくないよ。彼女たちが素直なだけだから」


「いや、すごいから」


 徐々に打ち解けてきたためか、葵さんたち相手にも美鈴さんの口調と声のトーンが砕けた感じに変わる。


 でも、なぜだろう。


 中島さんのときのような、胸を熱くする何かが感じられない。


「先ほどは申し訳ありませんでしタ。お詫びのこれヲ」


 アレクシアがそう言いながら、バックから取り出したのはスマホのストラップだった。


「うわ、綺麗……」


 何かの宝石のように輝く石が等間隔に埋め込まれ、銀糸の縫い目の中でその存在を主張している。


 こんなストラップを付けたスマホを取り出せば、クラス中の注目を集めることは間違いないだろう。


「シーメンス社の特製ストラップでス。お詫びにどうぞ」


「シーメンス社って…… ドイツの有名企業? 聖演舞祭にも出資してる、なんでもやってる大企業。マジ?」


「ワタシはその企業の跡取りでス。アレクシア・フォン・シーメンスといいまス」


 そう言いながら名刺を取り出したアレクシアに美鈴さんは目を白黒させていたが、中島さんの次の一言には気を失いそうになった。


「この石…… ガラスとかプラスチックじゃないよね? この重さからいって、貴金属じゃない?」


「その通りでス」


「いったい、いくらするの?」


「ゲハイニムス。秘密でス」


 アレクシアがとても悪い笑顔になる。


 目をそらしつつふと外を見ると、もう暗くなっていた。


「そろそろ帰らないと。今日は二人の特別稽古はなしだね」


「いえ、構いませン。師の人となりを知ることも重要ですかラ」


「せっかく訪ねてくれた人を放っておく柳生くんなんて、見たくないよ」


 アレクシアと中島さんはいつものリムジンで帰ってもらうが、美鈴さんはどうしようか。


「柳生さん、送ってあげてください。女性の夜道は危険です」


「それ、葵さんが言う?」


「……私は夕餉の支度をしておきますから。今日はメバルの煮つけです」


 

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