第33話 北辰一刀流 鶺鴒の攻め

 そこから何の予備動作もない無拍子の攻めで打ち込んでくる。

 攻撃のリズムがはっきりと変わった。

 今までのように綺麗に攻め込むのでなく、息もつかせぬ矢継ぎ早の攻撃。

 右面、左面、突き、右胴、左胴、小手。

 文字通り、こちらが息をする暇すら与えない。

 刀がぶつかるごとに火花が散り、一つの火花が消える前に次の火花が散る。

 この攻撃で仕留める気か。

 刀中蔵を使って防ぐのが精一杯で、とても反撃に移れない。

 スピードが速いなら、相手の腕なり刀なりを止めてしまえばいい。

 相手の刀を巻き上げて絡めとるなり、つばぜり合いに持ち込むなり、高野にやったように腕を掴んでもいい。

 でも葵さんが速すぎて、どの方法もできそうにない。

 どうあがいてもスピードでは彼女が上だ。

 攻撃に移らなければ勝てない。そして今僕は、攻撃に移れない。


『北辰師範、先ほど葵選手の刀の切っ先がふらふらと揺れたのは? スタミナ切れと思ったら、その直後ものすごいスピードで打ち込み始めましたが』

『あの切っ先の揺れは鶺鴒の攻め、という技術です』

『鶺鴒の攻め?』

『古流では刀同士を合わせると一瞬で喉や目に切っ先を突き付け、相手の動きを封じる技法があります。柳生選手がさっき使った『猿廻』が似ていますが。それをさせないためにああして剣を揺らすのです』

『では、鶺鴒の攻めの次に見せた矢継ぎ早の連続攻撃は何という技ですか?』

『木の葉落とし、ですな。落ちる木の葉をすべて打つかのごとき連続攻撃です』

『すごい、というのも失礼ですがそうとしか言いようがありません。柳生選手が防戦一方です。これで決まるんじゃないですか?』

『まあ、弱点はありますが』

『なんだかこれで終わらない、と確信してるような?』

『まあ、相手が相手ですからな』

『はあ…… しかし近年かつてないほどの白熱した試合ですが、そろそろ時間切れですね』

『そうですな』

『しかし、柳生選手はすごいですね。北辰葵選手とここまで長時間戦った選手は初めてです。大体の相手を葵選手は一分かからずに片づけましたから』

『柳生選手の構えには、弱点がありますからな』

『弱点?』

『今までの試合映像を見返してみたのですが、隙があるのです。今までは後の先をとってうまく対応していましたが、今度もうまく行くとは考えにくい』

『剣豪ならではの分析、さすがです。葵選手の勝利は盤石ですか!』

『まあ、万が一にも葵が後れを取ることはあるまいが…… 万一の場合には【イワナガ】がある』

『何か仰いましたか? よく聞き取れず申し訳ありません』

『いえ、なんでも』

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る