第58話 他者排除型の才能を開花させたい ステップ8 君が掴んだ腕は

和田も母親も驚いている。でも、そんなことに気を払っている暇はない。僕だって、堂々としていられるほどこんな場面には慣れていないのだから。

むしろ堂々とするしか僕には手がなかった。


「えっと、僕秀馬くんに勉強教えてもらってるんですよ。そしたらめきめき成績上がって!すごく感謝っていうか」


僕は怒涛に話し始める。

なんとか不審なやつに見えないように、出来る限りいいクラスメイトに見えるように。

本当は挨拶しかしない仲だけどね。というか、それさえも最近のことだけど。

でも、別にそれは嘘でもいいでしょ。これから本当にすればいいんだし。才能に気づいて仲良くしていきたいのは本当だから。

そして、その顔を救いたいのも本当だから。


「そのお礼言いたいんで、ちょっと秀馬くん借りますね」


そう言い、僕は和田の手を引き走り出した。とりあえず、母親から引き離したかった。そうすることしか思いつかなかった。

後ろで母親が何かを言ってる感じはない。

あれ?てっきり、


「どこに連れて行くの!!」


みたいな声が飛んでくると思っていたんだけど…。

一応それぐらいの覚悟はしていた。平手打ちされるとかね。

まだ呆気に取られているのかな?それはそうだ。いきなり他人が割り込んで来るだけじゃなく、息子を連れてくんだから。まぁそんな結婚式みたいに感動的でも、驚きすぎることもない場面だけどね。


少し走ると、和田を引く腕が重くなってきた。あれ?やっぱり疑問に思った?さすがにクラスメイトにいきなり腕引っ張られたって言っても、こんだけ走れば冷静にもなるか。

そう思い、彼の顔を見る。すると、そんなことよりもというように顔が真っ赤。

なるほど、体力か。

たしかに、和田は運動出来なさそう、、って失礼か。


僕は彼から何か言われる前に口を開く。


「ごめん、なんか話したいことあったんだけど忘れちゃったわ。急にごめん」


流石に、母親といる時の顔がやばすぎて連れてきたとは言えない。

だって、それは和田にとって触れられたくないことかもしれないし。あんな顔をしているぐらいだ、みられたい場面であるはずがない。

ましてや、思春期あるあるとして、親といるところは見られたくないっていうのもあるしね。

それに、僕にだって、恥ずかしいと思う感情はある。親子関係に直接入り込むやつやばすぎるでしょ、冷静に考えて。


できる限り、なんで割り込んだかバレないようにしたい。なんていうか、変なやつだから割り込んだぐらいでいい。

まぁ、あんまり気にしないでしょ。さぁ、いつも通り悪態つきなよ。

「何してんだよ?意味わからん」って。

むしろその悪態を待っている自分もいるんだ。


しかし、彼はいつまで待っても口を開く様子はない。それどころか、僕の言葉を待っているような不安げな表情を浮かべている。

あれ?どうした?

いつもの君じゃない。

いつもの君なら間髪いれずに悪態をついてくるはずなのに。


そんなことを考えていると、ふと僕は思い出した。僕も三者面談なことを。

やばい、早く戻らないと。和田に気を取られすぎていた。


「あ、僕もこれから三者面談なんだよね。もう行がないと」


なんて無責任というか、身勝手というか。僕は自分の行動に呆れながらも、教室に戻ろうと走り出そうとした。


すると、彼は僕の腕を掴んだ。

え?なに?




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