第56話 他者排除型の才能を開花させたい ステップ6 才能開花のための布石
僕は挨拶を返してくれた日から毎日同じように挨拶をした。友人に挨拶をしてから彼にする、勉強中でも構わず言ってみる、これらを繰り返してみた。
別に毎回彼から好印象な反応がもらえるわけではない。しかし、もう彼から少しトゲトゲの言葉を食らったからってもう、またまたぁと思うほどには僕には余裕が出てきていた。
僕と彼との関係は知り合いと友達の間ぐらいをぐらぐらしているように思えた。
挨拶をすれば返すまではいかないもののなんとか反応はもらえる。だけど、それ以外では僕も話しかける勇気が出ないし、彼からも反応はない。
彼には友人が必要なように思える。別に勉強に熱中するのはいいことだし、学生の本文でもあるだろう。しかし、彼は勉強することしか生きる目的がないような、それでないと存在が認められないような、そんな気迫さえ感じるのだ。
そんなことないんだってことを伝えたい。そして、君の魅力を存分に発揮できるよう僕はサポートしたいんだ。
その日は三者面談の日だった。
はぁ、三者面談って成績表返されるし、先生からの自分の評価を聞く場でもあってちょっと憂鬱。
あと単純に親といるっていうのも気まずい。まぁ、それこそ思春期ってやつ?友達の気まずさなら客観視できるのにね。
やっぱりまだまだ恥ずかしいお年頃ってやつですな。
僕はクラスの前の椅子で親を母さんを待つ。
三者面談までは図書館にいたけどそのあとは帰るかな、いや山下待って遊んでくかな、とか色々考えていた。
すると、
「ですから、東大以外に行くなんてなんの意味もないんです!」
と甲高いヒステリックな声が聞こえてきた。
え?何?
僕は驚き、その声の主を探す。どうやら、僕のクラス内の親が言ったようだ。
誰だよ、僕の前の人。びっくりするじゃん。
僕は順番の紙を見て探す。えっと、僕の前はっと、、
僕の前空白、その前が和田だった。
え?ってことはこの声って和田のお母さん?
それからはもうその声が途切れることはなかった。先生の声は聞こえないけれど、ただただ和田の母親の甲高い声だけが響き、クラスのみならず、廊下をこだまする。
もちろん、和田自身の声も聞こえない。ただただ響き渡るのは母親の声のみ。
何?どういうこと?
数十分後、
「では、今後ともよろしくお願いしますね」
という捨て台詞のようなセリフを最後にその声は止んだ。空白だった僕の前を埋めるほどに話すことがあったであろう和田の母親は、満足そうなしかしどこか話し足りなそうな顔をしながら出てきた。
そして、和田に何かをくどくどと話している。
僕は出てきた和田の顔を見る。
出てきた和田は一回り小さくなったような、か弱く、ふっと息を吹き掛ければ消えてしまいそうなくらい弱々しく見えた。
なぁ、どうしてそんな顔をしているんだ。いつもの生意気な姿はどうしたんだよ。
和田は、僕の顔を見ると、ハッとした顔をして、どこか気まずいような、そして傷ついたような顔をしていた。
そして、母親と共に足早にこの場から離れる。
違うんだよ、僕は君にそんな顔をさせたくて君と仲良くなろうと、才能を開花させようとしていたわけではないんだ。
ただ、僕は君が心配で、興味があって、そして君に笑顔になって欲しいんだ。
僕は駆け出していた。
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