第31話  崇拝型の才能を開花させたい ステップ6 ヤンデレ誕生!

ふぅ、とりあえず彼女とは中庭でも今日話したし、なんとなく仲良くなって来ている気はしている。

彼女と話すときは、楽しそうに話をしたり、ペースを合わしたりすることで彼女が僕を信用し、僕を学校での指標(お父さんがわり)にしてくれるといいな、なんて思ってる。

彼女には僕を信用してもらえること、学校での指標にしたいかもって感じに捉えてもらえるようにすることがスパイスになると思うんだよなぁ。


はぁ、今日も疲れた。さて、帰ろーっと。

明日からも彼女と話しながら、彼女の信頼度を獲得していこう。

そう思いながら帰ろうとした時、中庭をふと見ると、彼女が1人でベンチに腰掛けていた。

あれ?なにしてるんだろう。彼女は放課後あまり残るタイプではない。

それもそのはず、彼女は部活に入っていないし、残って話す友人もいない。

結果的に彼女は真っ直ぐ家に帰ることになるのだ。

ちょっと寂しい理由だけど。

でも、いるんだったら彼女と話すチャンス!彼女のヤンデレ才能開花を早くするためにも、彼女にはより多く話しかけておきたい。


僕は中庭に走っていった。

彼女はベンチにまだ座っている。

よかった、まだいた…ってあれ?

遠くから見ていた時には気がつかなかったが、彼女は涙を流していたのだ。

溢れた涙は止まることを知らないのか、僕が来たことにも気がつく様子はない。

なんだと?誰だ、僕のステキなヤンデレ候補を泣かせた野郎は、絶対に許さない。

僕は怒りに震えた。

いや、落ち着け。僕が怒ってもなにも解決しないだろう。

僕は深呼吸をしながら、その怒りを抑え彼女に話しかけた。


「おつかれ、どうしたの?どこか痛いの?」


すると、彼女は驚いたように泣いて赤くなっている目を向け、首をふるふると振った。

やっぱり体調関係じゃないのかな、どうしたんだろう。


「ち、違くて…。ちょっと…自分が嫌になっただけ、、」


とか細い声で言ったのだ。

何?自分が嫌になった?それは自分の意見が言えない自分に対してだろうか。

何かクラスメイトに言われてしまったのだろうか。やっと、彼女は僕とゆっくりではあるものの話ができるようになって来ていたのに。


しかし、ここで重要な点がひとつある。

それは、今までの彼女なら気にしなかったはずの言葉に引っかかり、泣いていると言う点だ。

彼女は自分が意見をなかなか言えないことを半ば諦めている節があった。

ずっとそう言われて来て、自分はそう言うものなんだと思っていたから。人は他人に自分はそう言うものだ、と言われ続けるとそう思い、諦めてしまう節がある。

ましてや、彼女は父親からずっとそう言われて育てられて来た。その呪縛から逃れることはなかなか容易なことではなく、他人から期待されないことはいつしか、自分も期待をしないことに繋がってしまうだろう。


しかし、そんなふうに傷ついたということは、彼女の中で何かが変わって来ていると言う証拠。

その変わって来ている心を支えて、彼女の長所を伸ばすことこそが僕に課せられた使命!

と、その前にまず彼女が悲しんでいる気持ちを支えなければ!

なんて言ったらいいから難しいけど、。


「そんな、僕は君のことが好きだよ。君には君のいいところがあるんだよ。君は絶対に人の意見を否定しないだろう?それに救われる人だって絶対いるはずなんだ。だから、君はそのまんまでいいんだよ」


僕は熱弁し、そのあと恥ずかしくなった。なにを言っているんだーーー!

こんな漫画みたいなセリフ言って、恥ずかしすぎる。彼女の長所を伸ばすって言ったって僕が好きとか言わなくていいんだよ。恥ず。

彼女だって呆れているに違いないのだ。

そう思い、彼女をチラッと見ると彼女は驚いたように目を見開いていたが、小さく、


「ありがとう」


と呟いたのだ。

良かった、引かれていない。


この出来事があった次の日から、彼女は変わった。

変わったと言ったって、自分の意見をポンポン言えるようになったわけではない。

しかし、朝少し話す中で、僕が言ったアドバイスや言葉を覚えていて行動するようになったのだ。


「クラスメイトに聞かれたら、一拍深呼吸してから言ったらいいんじゃないかな」

「君の賛同に励まされる人も絶対いるよ」


ってね。


彼女は僕を信用してくれ、僕に学校生活に対する相談をしてくる。その度に僕が返答すると、なるほど!わかった!と言い、それをそのまま実践するのだ。


そして言うのだ。


「高城くんの言う通りにしてたら間違いないね」


って。

その笑顔は彼女の才能を写したかのような綺麗でどこか妖艶な笑顔。

彼女は完璧に僕を学校での崇拝対象としている。

そうして崇拝型ヤンデレがこの学校に誕生したのだ。

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