第30話 崇拝型の才能を開花させたい ステップ6 ヤンデレのスパイスを(彼女目線)
彼から声をかけられるのを待っていると、
「おはよう、今日も会ったね」
と彼が話しかけてくれた。
やっぱり、彼は私に話しかけてくれるのね。待っててよかった。
今日は、お礼をいわなくちゃ、とか渡したい物があるというわけでじゃなかったけど、彼のことを待って、彼と話したいと自分から思った。
自分から何かを思って行動するなんて本当に久しぶり。ましてや、お父さんに言われてもないのにするなんて、ね。
彼はやっぱり他の人とは違う。彼は私に何か行動させてしまうパワーみたいなのがあるんじゃないかな?なんてね。
彼とは、今日も中庭で楽しく話をした。
彼は、やっぱり私に対してでも楽しそうに話をしてくれる。
みんな私と話してても全然楽しそうではないし、もう一回話しかけてくれるに人もいない。
だから、彼ならしてくれると思っていたけど、話しかけられただけでやっぱり嬉しかった。
私はこの時間を噛み締めるように彼とたくさん話をした。
最近の授業が難しいこと、もうすぐテストがあること、好きなアーティストの話、、
彼との話はとても楽しいし、全く緊張しない。
彼は私がどんな返答でも笑って聞いてくれるから。
私はもう、結構人と話せるようになっているのかな、なんてね。
今日は朝からいい日だな、と思っていた。
しかし、私は自分が調子にのっていたことを痛感する。
その日は、グループワークだった。
班ごとに分かれて、課題をまとめ、発表する形式。私の最も苦手とするものの一つだった。
途中まではよかった。私がいないような形で進んでいたし、でも私だって文字を書きながら参加していた。
しかし、それは突然やって来た。
「ねぇ、八代坂さんもなんか言ってよ。自分の意見とか無いの?」
そうクラスメイトに言われた瞬間、私も何かを言わないと、と思った。大丈夫、彼とならちゃんと話せるんだし、クラスメイトとも話せるよ。
ここはこうした方がいいよね、うんきっとそう。言うんだ。
「えっと、その…」
うまく言葉にできない。あれ、どうして言えないんだろう。朝はあんなに話すことができたのに。なにも言えない私にたいして、クラスメイトは呆れたようにため息をつき、もういいわ、と言った。
やっぱ自分の意見とかないのね、とぼそっと言った声が聞こえた。
その時、私は思い出した。
『お前は俺の言うとおりにしといたらいいんだ』
とお父さんにも言われてきた人生を。
あ、そうだった。私はお父さんに言われないと何もできない、何も決められない人。
なにを調子に乗っていたの。
私にはお父さんがいないと、自分で何か意見を言おうなんて、何かできるようになろうなんてなんておこがましいの。
どうせ私はなにもできないのに。
その日の放課後、私はぼんやりと中庭に座っていた。
クラスメイトに言われたあのセリフが頭を反復していた。なぜ、こんなにあんなセリフが気になるんだろう。今までだって何度も言われて来たセリフ。これぐらいで傷つく必要なないのに。だって、事実なんだから。
その時、気がついた。彼は私に何か返答を、と焦ることはなく私のペースで話を進めてくれるし、どんな返答でも私に対して責めるような表情はせず、むしろ私に対して笑いかけてくれる。
だから、私は安心して返答を考えられるし、返答できた。
でも、クラスメイトは私の返答を待ってはくれないし、むしろ私を急かす。だから、私はうまく話すことができず、結果的になにも言えない私だった。
あぁ、全部彼のおかげだったんだ。私は少しでも自分が変わることができたと思っていた。
しかし、話すことができていたのも、彼が楽しそうにしてくれていたのも全て彼のおかげ。私の変化ではない。
はぁ、なんて私はダメなんだろうか。彼のおかげなのにあろうことか私が成長したんだと思い、クラスメイトにも同じことができると調子に乗って、でも一丁前に傷ついて。
なんて情けないんだろうか。
私は涙が溢れて止まらなかった。
なぜ、私はこんななんだろうか。
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