第29話 崇拝型の才能を開花させたい ステップ5 ヤンデレのスパイスを

彼女と今日話してみてわかったことは、彼女は自分から話すことが苦手で、やはり噂通り、人の意見に合わせがちだということ。

僕が話しかけてもあまり返事はないし、何か意見を求めても「いいと思う」とか「そうだね」とかしか言わない。

まぁ、だからはっきり言って話は弾まないし、普通の人は彼女と会話していてもあまり楽しくないかもしれない。

やっぱり誰かと話していて楽しいのは、その人自身の見解が聞けることや、その人からしか聞けない体験が聞けることとかだからね。

賛同が欲しいこともあるけれど、賛同だけでは話が弾まないのは当然だ。


しかし、僕は違う。

彼女に才能があるのではないかと思っている僕にとっては、彼女との会話は才能開花のヒント満載のもの。どんな返しであろうと一言一句逃したくない。

返しがどれだけ淡白であろうと、その裏に隠された情報をもとに、彼女との関係性をすすめる手がかりにするし、彼女の才能を開花させるきっかけを掴む。

そのために、僕はやたらと話を弾ませたよ。全く、僕だってあんまり異性と話すのはなれてないんだからね。


そんな中で、彼女と話していてキーになりそうだと思った言葉がある。

それは、彼女が「うん」「いいと思う」以外に言った、


「お父さんがこれがいいって言ったから」


と言う言葉だ。

彼女は崇拝型の才能を秘めている、と判断できるように自分の意見をあまり言わないというか言えない原因がどこかにあると思っていた。

僕は過去に自分の意見を言ったことで嫌な思いをしたことがある、といったトラウマがあるのではないかと思っていた。杉沢のようにね。


だけど、どうやらそれは過去の何か出来事があってと言うわけではなく日頃の父親からの意見が強いからのようだ。


漫画やドラマとかでもよくあるけど、お金持ちにありがちななんていうか、父親が強すぎる家系なのかなと彼女と話していて思った。よく言う男尊女卑、じゃないけど、お父さんにとって彼女は操れる対象になっているんじゃないかなって。


幼い頃から、父親の指示に従ってきた彼女にとっては父親こそが自身の行動を決めてくれる存在であり、指標なのだ。

だから、父親が渡せと言ったものを渡すし、おそらくしろと言ったことを行ってきた人生だったんだろう。

それでもこれまでの人生は送ることができていたし、彼女のヤンデレ才能の元となることができていた。


しかし、これからの人生父親だけを指標として生きていくことは難しいし、何かあって父親から指標がえられなくなってしまった場合、彼女は自分のことをなにも決められない浮遊した人間となってしまう。

それでなくても、彼女にはいま自我を保つためのエネルギーが父親によって削られているように見える。それが、彼女から自身で道を切り開こうとする力を奪っているのだろう。


本来は彼女が自身から意見を言えるように促していった方がいい。それが、普通の生き方だし、大多数のひとはそうして生きていく。

しかし、それが彼女にとっても最善であるとは限らない。今までの生き方を否定するような、今の彼女を否定することは僕はしたくない。

彼女の性格を変えるのではなく、彼女の利点を生かす方向にもっていくことで、彼女は輝くことができるはずだ。


崇拝型の才能を開花させることで彼女はこれから所変わるところで自分の指標となる人を自分で見つけることができるようになる。

すると、自身で決めることが苦手でも、指標とする人を見つけることができれば生きていくことができるし、ヤンデレの魅力で周りの人とも今よりずっと仲良くしていくことができるだろう。


と、いうわけで彼女には崇拝型の才能を開花してもらうために、まず学校での自身の指標となる人を決めてほしい。

とりあえず、僕がなればいいか。

彼女は今、学校での指標がいないことで全く自分の意見を言えていない。

学校でも指標を決めることができれば、その人のアドバイスを聞いたり真似をしたりすることで彼女なりの個性を出すことができるだろう。

僕は手始めとして彼女の指標となれるような行動、僕自身が信頼される言動を行っていくことに決めた。


僕は彼女に今日も話しかけようと学校に行くと、もう彼女は玄関で待っていた。

ワクワクしたような、どこか緊張したような表情で彼女は立っている。

いや、まじか。これ僕は嬉しいけど、他の人だと重くて引くんじゃない?

だってまだ2回ぐらいしか話してない人のこと毎朝待ってるみたいなことになってるからね。

まぁ、そういう重さがいいんだけど。

やっぱり彼女は才能しかないよな。

絶対開花させてみせるからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る