第28話 崇拝型の才能を開花させたい ステップ4仲良くなる(彼女目線)

あぁ、なんだか楽しかったなぁ。

私は家に帰り、彼とチョコレートを中庭で食べた時間のことを思い出していた。わずかだけれど、チョコレートのように濃厚だった時間。

自然と笑みが溢れてしまう。


「今日はどうだった、しっかりできたか?」

今日もお父さんに聞かれる。

いつもは、

「今日もなにも変わらなかったよ」

「楽しかったよ」

とあまり学校の様子については言わない。そうしたら、お父さんがこうしなさい、こうすべきだって教えてくれる。だから、詳しく言う必要がないの。お父さんが全部私に教えてくれるから。


でも、昨日は違った。私は、彼が助けてくれたこと、笑いかけてくれたことを話した。

すると、それはお礼をしないといけないなってお父さんがチョコレートを渡してくれた。

そっか、お礼をしないといけないよね。全く考えてなかった。さすが、お父さん。私にいつも正しいことを教えてくれる。


朝、学校に着いた私は早速行き詰まってしまった。

彼にお礼を言いたい、渡したいと意気込んで来たのは良いが、なにせ彼の名前もクラスもわからない。どうやって彼に会ったらいいんだろうか。

一つずつクラスを回るわけにもいかないし、学校にくる人みんなが見られたらいいんだけど…。

そうか!玄関で待っていれば絶対に彼は通る。だって、この学校に玄関以外に入れるところはないし。


私は続々とやってくる人たちの顔を順々にみていく。あの顔は違うし、あの人も違うし…。

短い時間だったけど、私を助けてくれた彼の顔だけは見間違えない。絶対に。

私は注意して、顔を見ながら彼を待った。

えっと、、あ!いた。

人が多くいる中で、彼の顔だけが目立って見える。優しそうな顔立ち、人とは違う雰囲気…絶対にあの人だ。

その時になって気づく。あ、今日は自分から話しかけないと彼は止まってくれない。

全くそのことに気がつかなかった。

昨日は、私がこけたから彼から話しかけてくれたけど、今日の私には話しかけられる魅力もトラップもない。そんな私に彼から話しかけてくれるわけがないのだ。

私は今まで自分から誰かに話しかけるなんてこと滅多にしてこなかった。大体が誰かが話しかけてくれるのを待っていたし、話しかけてくれなかったらそれまで。

だから、どうしたら良いのか分からない。

やだ、なんでここで気づくんだろう。

やっぱりダメダメだな、私は。自分から話しかけるなんて私にはできそうもない。


「このチョコレート美味しいね、家でもよく食べるの?」

「家ではどんなことしてるの?」

「僕読書好きなんだけど、八代坂さんはどう?」

「最近、数学難しくない?」


こんなことがあるのね!

私は彼にお礼を言うために待っていたけれど、話しかけられなかった。だから、もうお礼は言えないのかなって思ってた。


でも、彼は私が困っていることを察して、彼から話しかけてくれた。それに、私は彼にチョコレートを渡したらはい終わり、ってなると思ってたけど、彼は私とチョコレートを食べようって誘ってくれて、しかも話しながら私と楽しい時間と過ごしてくれた。


彼は私の返事が遅くても、面白くなくてもうんうん、それで?って興味あるように聞いてくれる。

話が弾まなくたって嫌そうな顔しないで話を膨らませてくれる。

私は高校生活の中で一番楽しい時間を過ごした。

彼は他の人とは違うのかもしれない。


次の日も彼に会いたくて、私は玄関で彼を待った。彼の名前は高城くんって言って隣のクラスだということはわかった。

彼に会いたくてたまらない。彼なら私と飽きずに話してくれるし、優しいし…。

まさかこれが恋なの?なんてね。

あ、彼が来た!

今日も彼から話しかけてくれるに違いないわ。

待ってよっと。

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