第23話 独占型の才能を開花させたい 番外編 依存型の彼女はその頃

最近、彼の様子がおかしい。

今まで私以外の女の子を見ることはなかったのに、悪い噂しか聞かないような女の子をずっと見つめている。

たしか、あの子は城崎さん。

友達の好きな人を取りまくってるって聞いた。誰に告白されても拒まず、付き合うけど、すぐに振られるって。

そんなひどい噂しかないような子にあなたの視線を奪われるなんて私は耐えられない。


なんで?私にしか今まで興味なかったくせに。

私だけをあなたは見つめてくれていればいいのに。

私以外に構うなんて、私が許さない。

私は彼が彼女に話しかけようとするたびに自分が話しかけ、彼女に構う暇がないようにしようとした。


「ねぇねぇ、この小説読んだ?」

「昨日のドラマみた?」


って。

だか、ここで計算外のことが起こった。彼女の方から彼に話しかけるようになってしまったのだ。


何せ彼女と私で土俵が違うと言うか、簡単に言うと彼女のコミュニケーション能力は私の比ではない。

私が話しかけるためには、数少ない話の種を引っ張り出さなければならないのに対して、彼女には種どころか実ばかりというか、簡単に言うとポンポン面白い話題が出てくるのだ。

私が頑張って枯らさないようにしている水たまりだとしたら彼女はもう湧き出まくる温泉。

はっきり言って勝負にすらならない。


数日もすれば私と話していた朝の時間さえ、彼女は奪い、たまの休み時間もひたすら彼と話をするようになってしまった。

なぜ?あなたにはほかにも男友達がいるじゃない。私には彼しかいないのに。


彼からも頻繁にあった連絡は途切れ切れになり、学校では彼の姿を遠巻きに見ることしかできない。

彼のおかげで友人はできたものの、友人はあなたがいない寂しさを埋めてくれるわけではない。

もう私は彼に見捨てられてしまったのだろうか、もう彼は私のことなんてどうでもいいのだろうか。

いやだ、私はあなたがいないとダメなの。

なにもできないの。


もう、だめだ。もう耐えられない。

彼と学校で話す機会がなくなって1週間。毎日彼にメッセージを送ってはいるけど、彼からくる返信は以前よりも遅く、短い。

前まではあんなに私とのメッセージを楽しんでくれていたのに、私とあなたの夜の秘密のひとときだったのに。

もしかして、城崎さんと連絡をとっているの?

学校だけでなく、家での彼もあなたが独占するの?そんなの絶対に許さない。


そう思っていると、


「ピロンッ」


と通知が鳴った。何?今彼以外からのメッセージなんていらないんだけど。

しかし、私は一通のメッセージに目が釘付けになった。


『明日、暇だったら遊びに行かない?最近学校でまり話せてないし』


彼からの連絡が来たのだ。

なにそれ!

そんなのおっけーに決まっている。行かない選択肢などない。私は急いで返信を行い、明日の約束を取り付けた。


その日は私の今までの人生で一番楽しかった。なんてことはない、ご飯を食べて、本屋へ行ってなどぶらぶらしているだけだったが、とても充実した5時間30分27秒だった。


彼は私を見捨てたわけじゃない。だってこうやって私と話すだけじゃなく、遊びに行くという貴重な休日を私にくれるんだもの。

だから、城崎さんと学校で話していても我慢してあげる。

だって、彼のことだもの。何か理由があるのかもしれない。


その理由はすぐにわかった。

週明けから少しすると、彼女の意外な噂が耳に入ってきた。

なんでも今までとは違い、親切で丁寧な女の子になった、と。

なにそれ嘘でしょ、あの子に限ってそんなことないよ、と言っていた人たちも彼女の明るい笑顔と優しげな雰囲気に圧倒され、彼女の変化を認めざるを得なかった。


そして私は納得した。

あぁ、彼は私や彼女みたいに周りから浮きがちな子を助けるヒーローなんだ。

だから、彼女に目をかけていたのか。その証拠に彼女は生まれ変わったようの親切になってから、周りに同性の友達が増え、彼氏ともうまく言っているらしい。

さすが彼。私の救世主。

私を裏切ったわけじゃなくてよかった。

これからもよろしくね。

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