第8話 依存型の才能を開花したい 番外編 彼女目線①
「うざ笑笑、まじこいつの顔やばい」
「それな笑笑。ほら、これ食えよ好きだろ」
「生意気ー、何その顔笑笑」
いつから始まったのか、なぜ始まったのかもわからないこの地獄は、私を苦しめて離さない。
おそらく、私が親にも先生にも言わない、いや、言えないタイプだとわかっていたからやっていたんだろう。
もう中学も3年となり、あとは全員受験に向けていくと言った時期に突然始まった地獄。
受験のストレスの吐け口とされた私に救いの手は現れなかった。
幸い、この地獄は期限が決まっていた。
それだけを希望に私は生きた。
高校に行ったら全部忘れる、新しい私になる。
しかし、人間はそう簡単には変われない。
能動的に動くことに恐怖を覚えていた私は、すっかり受動的な人となっていた。
そんな私に話しかけてくれる人はいない。
私は何も変われなかった。
今日も本を読んで時間を紛らわす。いや、正確には人の目を紛らわす。
1人でいることを選んでいるからいると思われたい。できれば、かわいそうな人だと思わないでほしい。
私の僅かな抵抗だった。
「お…う」
何か聞こえた。しかし自分にではない。それはわかる。もし自意識過剰に何か言った?と振り向きでもすれば、また何か言われてしまう。
せめて目立たず、何も波風を立てないように…。
「杉沢さん、おはよう」
と声がした。
え?私の名前を読んだ?
本から顔を上げると見覚えのある顔が私の方を向いていた。
高城くんだ。
彼は私の隣の席。
派手なタイプではないが、交友関係はいわゆる広く浅くの人という感じ。
私とはあまり喋ったことはないし、挨拶される仲でもないけれど。
でも返さないと無視したとか思われちゃうし、正直誰にだって話しかけられたことは嬉しい。
「お、おはよう」
と私は返す。うわ、ちょっとどもっちゃった。
久しぶりに学校で話すし、緊張しちゃって…。
もうやだ、自分。
しかし、彼はそんな私のどもりなど気にすることもなく、
「あのさ、なんの本読んでるの?」
と軽快に会話を続けてきた。
え?私に挨拶だけじゃなく、話もしてくれるの?
正直嬉しいけど、何か裏があるのかな?
1人でいるから操りやすそうと思われてるとか?
いや、そんなこと考えるのは失礼。
「え、えっと、短編小説。恋愛とか友情とか色々なの入ってて」
と私は返す。こんな感じでいいかな?
もはや久しぶりすぎて会話があっているのかも。
呆れられちゃったらどうしよう…。
しかし、私のそんな思いとは裏腹に彼は、
「そうなんだ、面白そうだね。僕も読んでみる」
と言ってくれた。
え?嘘でしょ。私の持っている本を読むなんて。
社交辞令に決まってる。
でも…もし読んでくれたら、、嬉しいけど。
私は夜、今日の出来事を思い出していた。
私に挨拶してくれる人がいるなんて、とても嬉しかった。
そりゃ、気まぐれかもしれないけど、挨拶だけじゃなく少し会話もしてくれたし。本も読んでくれるかもって…。
でもあんまり期待しすぎてはダメ。自分が傷つくだけ。
次の日、私は少し期待しながら彼がくるのを待っていた。
すると、
「おはよう!杉沢さん。昨日教えてくれた小説、昨日買って読んでみた!すごく面白かったね。なんかしりとりとか使ってあって」
と彼は元気に私に行ってきた。
え?うそ?読んでくれたんだ。
しかも、読んだっていうだけじゃなく、感想まで言ってくれて。
そこまでの期待はしていなかった。
はっきり言ってとても嬉しい!!
「お、おはよう。よかった、私もこれ好きなの」
と私は返した。
そこから私達は、昨日よりも話をすることができた。
彼は、たくさん私と小説を中心に話してくれ、私は久しぶりに学校がとても楽しかった。
彼とはこの日を境に少しずつ仲良くなっていった。
朝、挨拶をし、1日前に教えた小説を彼が読んできてくれ、その感想を僕が伝えてくれる。そして私も感想を伝える。
そしてまた新しい小説を教える。
朝だけではあるけれど、私にとってはとても大切な時間だった。
彼と話初めて数日後、私は心に決めた。
彼に自分から挨拶をする!
彼ばかりが話してくれ、私は相槌程度しか打つことができない。
私はそれでもとても楽しいけれど、せめて挨拶ぐらいは自分からしないと、私が彼と話したい気持ちが伝わらないかもしれない。
それに、彼につまらないと思われたくない。
私はその日の朝、どきどきしながら本を読んでいた。
もうすぐ彼がいつもやってくる時間。
自分から挨拶をするのなんで久しぶり。
さぁ、頑張ろう。よし、来た!
「お、おはよう」
あ、ちょっと声が上ずった。恥ずかしい。
でも、
「おはよう!今日も読んできたよ!やっぱり杉沢さんのおすすめしてくれる本は面白いなぁ」
と彼は返してくれた。
やった!返してくれた。
挨拶して良かったぁ。私でもできることがある。
私は、これからの学校生活に光が見え始めた気がした。
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