第5話 花山院杏

「見なかったことにしよう」


ケツ丸出しの剣道部員は放置して、俺はそっと扉を閉めた。


「あら、みんな早いのね。せっかちさんだわ」


誰もいない渡り廊下を優雅に歩いてくるやつがいる。


「ドリルも来たか」


「杏ちゃんをドリル扱いするのはシュウだけだと思うんだけど」


銀髪ドリル娘の花山院杏(かさのいんあん)。


今日も優雅に髪をこねくり回しながらの登場である。


彼女は同い年なのだが、フィンランド人の母親と日本人の父親とのハーフで、目立つ。とにかく目立つ。


梨奈がドリルが目立ち過ぎてかわいそうだと、彼女のために金髪にしてあげたくらいなのだ。


ところで、ドリルは目がすごく悪い。遠くにいる人の顔が見えないのだ。見えないから目を凝らすためにしかめっ面になると思うだろ?しかし、こいつはならない。可愛さのためだとか言って、ずっと余裕の笑みを浮かべている。


「ドリル、こっちだ」


「シュウ様、言われなくてもわかっていますの。ぼやけて見えてるって何度も申し上げていますわ」


二年前、フィンランドから日本に引っ越して来て以来、こんな感じである。


「おはよう。今日もドリルなのな」


「それはまぁ、お気に入りの髪型ですので」


「杏殿。迎えに行くと言っていただろう?」


「京子さんありがとう。でも過保護すぎますわ。極度の近視なだけでどうしてみんな優しくしてくれますの?」


一同「「「過去に何があったか思い出して(くれ)(ほしい)(よ)」」」


「そんなっ!籠の中の鳥は嫌ですわっ!」


いつも、このメンバープラス林檎と一緒に過ごしていた。


高校生活初日から、この見慣れたメンバーかよ。


「ところで、今はオリエンテーションではないのか?」


「わたくしは真っ先にシュウ様の所に行きましたが・・・先を越されたようでして」


「ごめんね杏ちゃん。杏ちゃんの2組は何時に終わるかわからなかったの。・・・それに、クラスで新しい友達、杏ちゃんなら作るかな?って」


「この学校にこの3人がいると知っていて、そんな面倒なことはしませんわよ?」


何?この会話。ドリル入れて合わせて4人で四天王ってか?四天王、知ってんのう?


「修哉よ。くだらないことを考えているな。先輩として、禅の極みをここにしるす」


「や、やめろって。全然エッチなこととか考えてねーから!」


「問答無用!」


パチィィィン!


「いってぇーーーーー!」


絶対京子姉のせいだ。くだらないこと考えていたら顔に出るらしく、俺限定で警策奮ってくるこの先輩のせいで。


俺は高校生らしい煩悩を溜め込み過ぎて、彼女募集中とか言ったんだよ、多分な!!

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