第4話 浅倉京子

俺と梨奈はタイミングを見誤った。


何の話をしてるかって?それは教室を出るタイミングの話で。


体育館の隣にあるんであろう弓道場に併設されている剣道部までたどり着けないって話だ。


体育館の入り口の手前、渡り廊下というんだろうか。人が大勢二列になっていて、左右から待ち構えられている。


待ち構えていた先輩たちの勧誘の嵐である。


「あれ?君たち一年生?」


「そうですけど。剣道部どこですか?」


「剣道なんてやらないでバドミントンやろうよ」


「あのっ、剣道部・・・」


「剣道なんかじゃなく、バレーボールだろ?マネージャーでも大歓迎!!!」


「剣ど・・・・・・」


「新体操部に入ってえ!部員が足りないのぉ!」


先輩たち、必死すぎである。


剣道部が遠い・・・まだですか?


「おい梨奈。ほんとに行くのか?今ならまだ引き返せるぞ?」


「んー、京子姉、そろそろ来る頃だと思うんだけどなぁ」


いや、来てしまってはまずいと思う。だからこうして出向いているわけで。


しかし。後続の同級生たちが来ない。1人も。


(俺たちが来るのが)早すぎたんだ・・・。


ついに運動部の先輩方に囲まれてしまった俺たち。


そこに、乾いた音が響き渡る。


ピシャアアアン!!!!!!


「やべー!浅倉だ!逃げろっ」


あんなに集まっていた先輩たちが散り散りになって逃げ出す。


逃げ遅れた感じに立ち尽くしているのは俺と梨沙だけだ。


「ふむ。体罰にはならないとはいえ、やはりやりすぎたか?」


「いや、助かったよ京子姉」


「今日は京子姉を止める人、いないんだね?」


「あいつらは、こんなイベントの時に部室に鍵をかけてわたしを閉じ込めようとしたのだ。監禁罪だぞ。斬り捨ててやったわ。この警策でな」


黒髪ロングで俺と同じくらいの身長、目つきが鋭く、痩せ型で足が長い。そして右手に警策(きょうさく)という、座禅組むとお坊さんが後ろから叩いてくるやつを持って佇んでいる。


この人の名前は浅倉京子(あさくらきょうこ)。中学から何かと縁があるひとつ上の先輩だ。


「で、やっつけた部員はどこに?」


「全員、用具室に入っている。わたしが斬ったやつに興味があるのか?」


「いや、保健室に連れて行かないと・・・」


「京子姉、手伝ってくれる?」


梨奈は慣れたように京子姉の横を通り過ぎて体育館に入ろうとする。


「待て、待ってくれ。今回もわたしが悪いのか?先に仕掛けてきたのはあいつらだぞ?」


「だってその警策痛いじゃあん?」


「梨奈を斬るわけないだろ。なぁ、わたしが悪いのか?」


「なぁ、おい梨沙、見ない方がいいんじゃ・・・」


「さてさて、どれだけ京子姉があばれたんだーろッ」


梨奈がガラッと用具室が開ける。


そこの白いマットに沈んでいるのはケツを真っ赤にしてうずくまっている5名の男子だった。

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