第9話信頼、消滅

「おい、ヘルお前!何してんだよ!」


俺はテルの元に駆け寄る。顔が青ざめているし顔にも少し傷がある。殴ったのだろう。


「おいお前、していい事と悪い事の違いも分からないのか?」

「はぁ?何よ!いつも一緒に虐めてたあんたが自分の事だけ守ろうとするの!?ルイスの方が酷いことしてたくせに!」


…そういう事か。何かテルやヘルの言動の端々が少し自分の中で引っかかっていたんだ。

ルイスがテルに宿題をさせていたりしてヤバいやつだったんだろうと思ったがいつも頭を撫でていたりしていたりしたのは良いように使うためにしていたんだろう。

完全に性根の腐った貴族のそれだ。


「お前のような信用出来ないやつには言う

つもりは無かった。だか、この場合言う。

俺はルイス本人じゃない。別の世界で産まれて死んで転生してきた異世界人だ。」

「はぁ?何言ってんの?ルイスまたクスリ

使ってるからおかしいんでしょ!そうよ!私のおすすめの奴吸った?いいよね!」


意味の分からない納得を勝手にしている

ヘルに俺の中で堪忍袋の緒がちぎれた。俺は全力でヘルに殴り掛かる。


「お前、いじめでどれだけ辛い思いをすると思ってんだ!上官だからって調子乗ってんじゃねーぞ!それにクスリだと!薬物がどんだけ酷いものか分かってんのか!」


俺の目には涙が浮かぶ。こいつは自分が悪いと分かってないようだ。

実際俺は自分は結構優しい方だと思ってる。

そんな俺が女に殴り掛かるほど怒るのには理由があった。


それは俺の小学校の頃友達が学校でいじめにあっていたからだ。親友だったその子を助けるため俺とその子は必死に大人達に言ったが誰も信じてはくれなかった。そしてその子は俺の家のポストにありがとうとだけ書いた紙を入れた後、屋上から飛び降り死んでしまった。


「お前みたいな奴の軽い気持ちでやった事で辛い思いをして消える命だってあんだぞ!それを、それを」


痛みで気絶しているテルを見る。本当に辛かっただろう。そんな事をされているのに仲良くして、これ以上されたくないから必死で、


「とりあえず俺はテルを救護室に連れていく。お前の今回の事は見逃してやる。どうやら前の俺も悪かったらしい。だからこそ2人でしっかりテルに謝ってちゃんとやり直そう」

「はい、」

「分かったなら良いよ。だが2度はないぞ」


俺はテントから出て急いで救護室に向かう。


「すいません!緊急の患者が1名いるんですが!」

「あぁ、はいはい」


と白衣を着た先生がやってきた。


「これは長い間殴る蹴るされないとこんな事なりませんよ。」

「すいません、前の俺がやったみたいで」

「え?二重人格なの?まぁいいや。とりあえず

この子は治癒魔法で治すから明日の朝迎えに来てあげて。」

「わかりました。」


そう言って俺はテントから出る。

…肉じゃがこぼしちまったな。はは、ガイアに怒られるかな

俺は見回りの時に見つけたロケットペンダントを開く。俺の転生時に持っていたので引っ付いてきたのをたまたま見つけたのだ。


そのペンダントの右側には家族写真、左側は

自殺した親友との2ショットとありがとうと書

かれた紙が入っていた。


「なお、俺はどうすれば良いのかな、」


そしてテントに戻り、ガイアにこれまでの話をした。


「歩夢君は頑張りましたよ。もう泣いて良いんだよ。」

と俺の事を抱きしめてくれた。

それで緊張の糸は切れてしまったみたいで、

その後俺は泣きじゃくりそのまま寝てしまった。

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