第32話 自分の気持ち

「あ゛あ゛あ゛っ! ん゛ん!!」


 獣のようなもなさんの喘ぎ声を聞きながらベッドに横になるとあの日のことを思い出す。

 肌と肌、粘膜と粘膜が触れ合い二人の体が一つになる感覚は何があっても忘れることはできない。


 この思い出があればずっと生きていけると信じていたのに、想い焦がれる相手と再会したことで思い出だけでは満足できなくなってしまった。


 もなさんは僕のことを気に入ってくれている。


だけど、今日会ったもなさんはまるで僕のことなんて知らないみたいだった。

学校でAV共演のことを話せないという事情があったのかもしれない。それは僕だって同じだ。


「でも、寂しいじゃないか」


 もなさんにとってはたくさんいる男の中の一人かもしれないけど、僕にとっては人生で一人しかいない初体験の相手だ。


 悔しいのに勃起してしまう。もなさんへの気持ちは大きくなっていく。


「僕にはもなさんしかいない」


 自然と右手が相棒に伸びる。エッチをした回数でいえば蟹谷先生が勝っているのに、思い出すのはもなさんとの初体験ばかり。


 丹生うにゅうさんの自慰行為も栗須さんのアプローチだってドキドキはする。真っ当な青春を送っていればこれ以上ない最高の思い出なのに、僕はAV出演という成人ならではの体験をしてしまった。


「……もなさんの子供になりたい。ママ……ママぁ」


 右手の動きが加速する。このまま爆発させればベッドが汚れるのはわかっているのに止めることができない。

 

「あぁ……ママッ! ママッ!!」


 全身がけいれんすると同時に右手からへそにかけて体温よりも熱いものが降りかかる。同時に、その熱さが頭をクールにさせた。


丹生うにゅうさんと結婚すれば、義理の息子になれる」


 それがママの幸せになると丹生うにゅうさんが言っていた。

 僕の欲求を満たすためだけじゃない。もなさんの……母親が幸せになることが丹生うにゅうさんの幸せで、義理の息子になれれば僕も幸せになる。


 就職どころか大学にも合格してない僕がもなさんを幸せにできる保証はない。でも、もなさんを幸せにしたいという気持ちは勉強や仕事のモチベーションになる。


 僕がもなさんを幸せにする。


「……明日、告白しよう」


 丹生うにゅうさんはきっと告白を受け入れてくれる。先に結婚を提案したのは向こうなんだから。

 蟹谷先生には付き合ってることがバレるかもしれないけど体だけの関係だ。きっと気にしない。

 それどころか彼氏を寝取る女教師モノみたいで興奮すら覚えてくれそうだ。


「栗須さんにも報告しないとな」


 後輩の気持ちには応えれない。これを機に僕みたいな男から身を引いてまともな青春を歩んでほしい。栗須さんはまだ一年以上も高校生活が残ってるんだから。


「あ~あ、もっと早く気付けばよかった」


 僕は七咲もなが好き。一人の女性として愛してる。

 汚れたベッドを片付けなら自分の気持ちを何度も確認した。

 明日の告白は浮気行為ではないと納得させるために。

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