第25話 堂々と
「部活で顔を合わせるの気まずいな……」
ぽろりと本音がこぼれ落ちた。できれば部活前に話を付けて、以前みたいにとはいかないまでも僕が引退するまでは付かず離れずの距離感を保ってもらう。
完全にこちらの要求を飲んでもらう形になるけど、まだ二年生の
『練習の前に時間いいかな?』
LINEの画面を開いたままなのか一瞬で既読が付き、そして返事もすぐに来た。
顔も見たくないなんて言われたらどうしようかと思っていたのでひとまず第一関門はクリアだ。
短い文字のやり取りでは何もわからず不安だけが募っていく。こうやって焦らさせるのは苦手だ。
すぐに答えが欲しい。間違えていたらすぐに直したい。それが叶わず何もできない状況というのは実にもどかしい。蟹谷先生に与えられた処罰に似たものを感じる。
「
「あ」
「この前はすみませんでした。クリスはすっかり元気です!」
サラサラのツインテールをなびかせながらドンと胸を張る。マスクで顔が半分隠れているからこそ強調される目元は自信に満ち溢れていて、休んでいた間の体力の衰えを感じさせなかった。
「あー、ごめんね。すぐ近くに居たのにLINEしちゃって」
「いえいえ。クリスが先輩を発見して急いできただけですから」
朝のホームルームまであと15分。時間に余裕を持って登校する生徒が一番正面玄関をくぐる時間帯だ。たくさんの朝の挨拶が飛び交い活気に溢れている。
傍から見れば僕らも先輩と後輩が挨拶を交わしているだけだ。だけどその視線の中には様々な感情が入り混じっている。
「何かお話があるなら今でも大丈夫ですよ」
「そう、だね。ちょっと移動しようか」
「はい」
朝の時間帯に
案の定、ホームルーム前から体育館に向かう生徒は誰もおらず、すぐに周りから人はいなくなった。
「体調はもう良さそうなの?」
「おかげ様で元気いっぱいです!
「いや、元はと言えば僕のせいだから」
「えぇ? 先輩のせいじゃないですよ。悪いのはあのいかにも悪人面の二人です。
「そもそも僕らみたいな高校生はああいう場所に行くべきじゃなかったんだ。……いや、済んだことは仕方ない。
僕が言いたいのはラブホ街に後輩を連れて行って、危険な目に遭わせてしまったことじゃない。もちろんそれも悪いとは思っている。でも、ご両親にも謝罪しているし、本人も元気に登校している。
誰にもバレないように高校生活を終えようと抱えていた秘密を自分の口からさらけ出す。あの映像が本物だっと自ら答え合わせをする。
何事もなかったかのように振る舞ってくれる後輩の気遣いを無駄にするかもしれない行為を、僕は今からしなければならない。
「あのね、
「映像のことですよね」
僕の言葉を遮るように
「サンプルだとモザイク掛かってるんですね。あの人達、ちゃんとお金を払ってるんだと思ったらちょっとおかしかったです」
「あはは……」
サンプルで満足したり違法ダウンロードが横行する中、きちんと購入履歴からAVを再生していた。僕らにちょっかいを掛けた以外は案外まともなやつらなのかもしれない。
僕と同じ感想を
「クリスの知らない
後輩からの問い掛けに無言で頷いた。腹を決めてAV出演の件を話そうと考えていたのに、全て
「AVで童貞を卒業した男なんて気持ち悪いだろ? 僕と一緒に居たらまたああいう輩に絡まれるかもしれないし、僕が引退するまでもうちょっと距離を」
「誰にも知られたくないですよね?
「うん。父さんには何も言ってない。勝手に応募して、当選して、結果は
「クリスは
「あの、本当はもっと言いたいことがあるんですけど、もうすぐホームルームなので教室に行きましょう。クリス、
ツインテールを揺らしながら
ホームルームまであと5分。ちょっと早歩きすれば全然間に合う。
それに蟹谷先生はチャイムが鳴ってから1分後くらいに教室に入ってくる。ギリギリ遅刻の生徒をセーフにしてくれる寛大な先生だ。
まだ
「……僕の攻略法ってなんだ?」
ふと、
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