第22話 高校生の責任の取り方
ご両親は僕を気に入ってくれたみたいだけど、当の本人に嫌われては意味がない。
なんたってAVで、しかも親と同年代の女優さんとエッチしたとなれば普通は幻滅されるだろう。
普通から足を踏み外した僕は普通に登校して、普通に授業を受けた。
ここだけ切り取れば他のクラスメートと変わりないんだから不思議なものだ。
初体験の相手であるもなさんの娘である丹生さんも何食わぬ顔で授業を受けていた。こうも日常生活を送っていると全てが夢だったんじゃないかと思う時が何度もある。
だけどやっぱり夢ではなくて現実だと痛感させる言葉を掛けられた。
「
担任の
それならば腹を決めて今日職員室に行くのがいい。
幸いにも
「はい」
「えっと、たぶん自分で理由はわかってるよね?」
周りに他の生徒がいないのを確認して
黒のタイトスカートに白いブラウス、セミロングの黒髪にメガネといういかにも教師といういで立ちは一部の男子に好評だ。
数学担当でやや細かい性格だけど親しみやすく、男女ともに人気のある先生とこうして至近距離で言葉を交わせば自然と心拍数が上がってしまう。
「ちょっと言葉を濁して職員室って言ったけど、できれば生徒指導室に来てほしいんだ。わたしと黒田先生がいるから」
「わかりました。すぐ行きます」
「先生も荷物を置いたらすぐ向かうから。黒田先生と二人きりが気まずいなら廊下で待ってて」
「大丈夫です。生徒指導室の前で立ってる方が緊張します」
「そっか。できるだけ急ぐから
誰が呼び出されたとか噂にならないための配慮なんだろうけど、あまりに人が寄り付かない場所だからかえって目立ってしまうのが実情だったりする。
「さすがに
ラブホの前で女子高生が倒れて、それを通報したのも高校生。
二人が学校の制服を着ていたとくれば病院側が一応学校にも連絡したのかもしれない。
「中には入ってないわけだし、正直に話せばなんとかなるだろ」
生徒指導室のドアをノックすると、渋い声で『どうぞ』と返ってきた。
ゆっくりと入室すると、声も顔も恐いけど普段は優しい古典担当の黒田先生が腕を組んで座っている。
「すみません。もう揃ってたんですね」
僕が先に入室したのが意外だったのか慌てた様子で
「いえいえ。ちょうど今来たところですよ」
黒田先生が言うと
もしかして待っておくのが正解だったのかな。悪いのは自分だから責任を負う意味でも一人で入室したけど、担任的にはマイナスだったらしい。
「とにかく座って」
「はい」
先生二人の前に着席するというなかなかに緊迫感溢れるシチュエーションが出来上がった。
ドラマで見る取り調べですら犯人と刑事が一対一で、傍らに記録係の警察官がいるという構図なんだから、二対一の今の状況は取り調べよりも圧迫感があるのは当然だ。
腹を決めていたとはいえ、先生がどこまで事態を把握しているのか未知数である以上は身構えてしまう。
そんな張り詰めた空気の中、黒田先生が咳払いして話題を切り出した。
「SNSで開陽の生徒がラブホの前でトラブルになったと拡散されている。幸い顔にはスタンプが貼られて特定されていないが時間の問題かもしれない」
誰も助けてくれなかったのにしっかり写真に収めているやつはいたらしい。しかも僕らを悪者扱いしてるんだから厄介だ。
「順番的には、病院から
「それを裏付けるようなSNSの投稿もあったからね。
「…………」
正直に話せば
押しに負けたのは僕だし、
言葉を選んで慎重に答えようとするとどうしても間ができてしまう。どんな回答が適切かを考えているうちに
「
言われてみればその通りだ。だけど、もし自宅に連れていったら
ホテルと違ってある意味で僕は逃げ場所を失ってしまう。付き合っていないからこそ遊び感覚でラブホに行ったのが正解だったように思える。
「18歳で成人になったから、良いかなって」
ウソではない。実際、
「とは言えまだ高校生でもあるかね。まったく難しい年代にしてくれたもんだよ」
黒田先生が大きくため息を吐いた。
大人達が18歳を成人年齢に引き下げておいて勝手なものだ。自分がその大人の仲間入りを果たしていることに少し嫌悪した。
「具体的な処分を下せば答え合わせになってしまう。SNSの投稿で
「
「え。そんなんでいいんですか?」
「仕方なくだ。校則が法律に追い付いてないというのが実情だからね。
不服そうな黒田先生とは対照的に僕はほっと胸を撫で下ろした。
「まあまあ。ある意味、
どこに怒りをぶつけていいかわからない黒田先生を
「
「はい」
もし
ご両親にもその辺は釘を刺されている。
だから僕はハッキリと
「それじゃあ
「今日は平気なんですか?」
「急に生徒に頼むような雑用ってないものなのよ。その代わり、いつ呼び出されるかわからない恐怖を今回の処分だと考えてください」
「ははは……」
確かに今日から一週間とか期限が定められてない分、ストレスを感じる気がする。
年齢的に成人を迎えても高校生は高校生だ。その責任の取り方は先生によって手綱を握られている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。