第19話 オトナですよね
「小亀先輩は大人な女性が好きなんですね」
『年上の』という言葉だけ聞けばそういう結論になる。もちろん間違えではないけど60点だ。ただ年齢が上という理由だけで好きになるのなら先生達も恋愛対象になるし、他のクラスメートの母親だって対象になってしまう。
実年齢よりも若く見えるもなさんを好きなのは、40歳前後が好きなんじゃなくてそれなりに若い人が好きということになってしまうのだろうか。
この辺を説明するのはすごく難しい。いわゆるタイプだからでは好きなのではなく、七咲もなだから好き。
見た目は子供、頭脳は大人になる薬をもなさんが飲んだとしても僕はもなさんを好きになるんだと思う。
母性の一端はあの大きなおっぱいや柔らかな肉体が担っているのは間違い。だけどその真に迫るのは実際に母親である点だったり、高校卒業後すぐにAV女優としてデビューして今日まで活躍する人徳や優しさだと勝手に思っている。
「おじさんはみんなJKが好きなのに、高校生の時は年上が好きなんておかしいです」
「僕らくらいの年代はみんな大人のお姉さんが好きなんだ。そして年を取ると反対に若い子が好きになる。愚かな生き物だろ?」
「まったくです。高校生ならJKと付き合っても犯罪じゃないのに」
一般論を振りかざしてこの場をかわそうとしても
「大人が好みならクリスを大人にしてください」
「えっと、どういうことかな?」
「成人済ならいろいろなところに入れますよね? クリスと一緒も連れていってください」
「それは大人とか子供とかの問題じゃなくて、ただの先輩後輩が行くところではないんじゃないかな」
「小亀先輩は誰とも付き合ってないんですよね? だったらいいじゃないですか。吹奏楽部の活動だっていつまでこんな風に続けられるかわからない。秋の引退より先に部活が中止になったら、ちゃんとお別れもできないまま接点がなくなって……」
「さすがに秋までは活動できると思うよ。秋どころか来年はマスクなしで思いっきり練習できかもしれないし」
「でも小亀先輩は卒業してますよね。クリスは小亀先輩と一緒がいいんです」
「そう言われても僕だってそういう場所は行ったことないし……成人したと言ってもまだ高校生だから追い出されるんじゃないかな」
「大丈夫ですよ。クラスの女の子も年上の彼氏と入ったって言ってました」
「そ、そうなんだ……」
僕みたいに企画ではなく、お互いに愛を育んで体を重ねる。しかも
彼氏側がちょっと強引に迫ったのかもしれないけど、それでも恋愛経験に関して言えば僕よりずっと大人だし、プロにリードされた僕と違ってお互いに愛を確かめながら行為に及んだんだと思う。
女子のコミュニティというのもあるんだろうけど、そういう話が耳に入る
18歳になって、エッチをしただけでは全然大人じゃない。自分よりも子供だと思っていた後輩に痛感させられた。
「小亀先輩だってしたいですよね? 恋人じゃなくてもいいから、まずは体の相性だけでも確かめるって大切だと思うんです。本命の前の練習とかでもいいので」
「練習って……大切な後輩にそんなことできないよ」
「小亀先輩のは優しさじゃないですよ。女の子が恥ずかしいのを我慢してるのに。小亀先輩、クリスを大人にしてください。さもないと……」
脅迫はしないと言って彼女の言葉は信じられる。同時に、その責任から僕が逃げないと
「中学の時から部活が制限されて、高校に入ってもそれが続いてて、そんな限られた場所や時間の中で一生懸命初心者のクリスにトランペットの吹き方を教えてくれた先輩を、好きになるなっていう方が無理なんです」
なんとなく言葉を濁しながら行為を伝えてきた
僕の鈍感力はそこまで高くないのでさっきからその気持ちは十分に伝わっている。それでも直接的な言葉で表現されると胸にグサッと突き刺さった。
「今は子供でも、小亀先輩に大人にしてもらったら、先輩のタイプになれるかもしれません。他の人じゃダメなんです。小亀先輩がいいんです」
「…………わかった」
涙で潤んだ瞳が僕を捉える。こんなに可愛い女の子に好きと言ってもらえるなんて幸せの極みだ。タイミングが少し違えば僕はちゃんとした青春を送っていたかもしれない。
でもそれは難しい話。同級生だったらこんなに親しくなっていないと思う。先輩後輩という関係で出会い、先輩として指導したから彼女に好意を抱いてもらえた。
その間に僕はもなさんへの想いを募らせ、運よく4月で成人を迎えたからAVの企画に応募した。
タイミングが噛み合っているようで少しズレているから、
ある意味で僕は加害者かもしれない。可愛い後輩には真っ当な青春を過ごしてほしい。
一足先に大人になった者の責任として、後輩の願いを叶えよう。
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